偽りと本質のWebデザイン
どこかで見た景色が目の前に広がる。
ここは・・・クロスアナリティクス社?
右手に掴んだカードキーをエントランスのセキュリティゲートにかざしたが、セキュリティは解除されない。
「・・・!?」
その時、エントランスの向こうから一人の男がやってきた。
「・・・ボーン、お前はもうクロス社の一員じゃない」
「・・・どういうことだ?」
「・・・さらばだ」
「・・・!?なぜだ!?
デイビッド!?デイビーッド!!」
はあっはあっはあっ・・・。
ボーン、大丈夫・・・!?
ひどくうなされていたわ。
ボーンの傍らに、心配そうに覗き込むヴェロニカの姿があった。
・・・。
もしかして・・・いつものあの夢・・・!?
ボーンはヴェロニカの質問には答えず、ベッドに横たわった身体を起こした。
ボーン・・・。
・・・今日で21日目だな・・・。
・・・ええ。
ボーンはカーテンを開けた。
摩天楼から見えるビル群。
その先には、漆黒の闇を明るく照らし始める朝の光があった。
部屋に届き始めた光は、部屋の奥に置かれたブナ材のテーブルをまぶしく照らす。
このテーブル、本当に素敵だわ。
さすが職人の仕事ね。
・・・。
マツオカのWebサイトに課せられていたGoogleからのペナルティ、解除されたみたい。
さっきサーチコンソールで確認したわ。
・・・そうか。
そう言うと、ボーンはゆっくりと椅子に腰掛けた。
ボーン、これからどう闘うつもり?
あなたの腕を信頼しているけれど、お世辞にも、あのサイトがすぐに売上げを伸ばせるとは思えないわ。
ヴェロニカの声を聞くか聞かないかと同時に、ボーンはアタッシュケースからノートPCを取り出し、ブナ材のテーブルの上に置いた。
PCを起動し、ブラウザを立ち上げるボーン。
そこに映し出されたのは、マツオカのWebサイトだった。
マツオカのサイトね。
・・・Webデザイナーだな。
えっ?
・・・Webデザイナーですべてが決まる。
ボーンはそう言うと、おもむろに立ち上がり、鉄のハンガーにかかったジャケットを手に取った。
出かけるのね。
ああ、白い豹を起こしておいてくれ。
OK、ボーン。
ボーンの様子がいつもと違う。
ガイル社との決着をつける気なのね・・・。
ヴェロニカは白いジャガーに乗り込み、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
めぐみさ~ん、どうやらペナルティってのが解けたみたいですよ~。
マツオカのオフィスで、松岡めぐみに声をかける人物がいた。
えっ!?
ほ、本当だ・・・!!
ありがとう!!高橋くん!
いや~、サーチコンソールとかいうのからメールが届いていたんで。
これで元通り、順位が上がるんですかね~。
言葉を発した男の名は「高橋裕太」。
マツオカの専属Webデザイナーだ。
うん・・・、実はまだよくわからないの。
でも、あの人の言ったとおり、ペナルティは解除されたわ。
“あの人”って・・・?
この間、深夜にやってきたという、謎の男のことですか?
・・・ペナルティが解除されただけじゃ、順位は上がらないわ。
えっ!?
!?
ボーンさん!!
ヴェロニカさん!!
お久しぶりね。
3週間ぶりかしら。
はい!!
おかげさまで、サイトのペナルティは解除されたようです!
・・・この会社のWebデザイン担当は誰だ。
あ、ボーンさん!!
先日は本当にありがとうございました!
・・・Webデザイン担当は誰だ・・・?
あ、す、すいません・・・!
彼です!
彼がうちのWebデザイン全般を担当してくれている”高橋くん”です。
ど~も、高橋です。
めぐみさんからお話は聞いてました。
・・・。
うわ・・・ガタイ、ごついっすね。
ふふ。ボーンの握力は100kgを超えているわ。
ひゃ、ひゃっキロ・・・!?
何か格闘技とかやってんすか!?
・・・お前がこのサイトをデザインしたのか?
お、お前・・・って・・・。
はい、そうすよ、俺がこのサイトのデザインとコーディングを担当してます。
そうなんです、高橋くん、すごいんですよ。
2年前うちに来てから、すぐにこのサイトをつくってくれたんです。
・・・文章もお前が書いたのか?
そうっすね。
ただ、俺、文章を書くの苦手なんで、最低限の文章しか載せてないっすけど。
・・・お前にとってWebデザインとはなんだ?
えっ!!?
・・・!?
い、いきなりそんなこと言われても・・・。
急に変なことを聞いて、ごめんなさいね。
ボーンは、あなたがこのサイトのデザインをした時に、“何”を大切にデザインしたかを聞いているの。
うーん・・・。
・・・そうっすね、やっぱ“アート性”っすかね。
家具を販売しているサイトっすから。
家具を買う人ってお洒落好きな人が多いし、やっぱサイトもお洒落にしておかないと。
・・・辞めろ。
へ?
・・・聞こえなかったのか?
Webデザイナーを辞めろ。
ボーンさん!!
慌てて駆け寄るめぐみを、ヴェロニカは手で静止した。
や、辞めろって・・・おっさん、何様のつもりだよ!!
め、めぐみさん!!俺のことそう思ってたんっすか!!?
いいえ!そんなこと一度も思ったことないわ。
ボーンさん!
高橋くんはこの会社に来てから、一生懸命、あのサイトをつくってくれたんです。
うちの会社が存続していられるのも、あのサイトがあるからなんです!
いきなり、辞めろなんて・・・意味がわからないです!!
怒るめぐみを意に介さず、ボーンは静かに言った。
高橋といったな・・・。
お前の仕事はWeb制作以外にあるのか?
し、仕事って・・・あ、新しい家具が完成した時には写真を撮ってる。
あとは、販促用のフライヤーもデザインする!
文章は書くのか?
・・・だから、俺は文章が苦手だって・・・。
・・・。
俺なら、今より売上げのあがるサイトを、1日でつくれるぞ。
えっ・・・!?
な・・・1日って、そんな短い時間でどんなサイトがつくれるってんだよ!!
怒りに震える高橋。
そんな高橋を心配そうに見守るめぐみ。
ヴェロニカが口を開いた。
めぐみさん、ごめんなさいね。
実は、あなたたちのサイトのことを調べさせてもらったの。
住まいやライフスタイルにこだわるお客さまをターゲットに、オーダー家具(注文家具)を製作している会社。
食器棚や本棚、リビングボード、場合によってはドラム型の洗濯機収納まで、世界にない“たったひとつ”の自分だけの家具にこだわるお客さまをターゲットとしている。
オーダー家具が依頼されるシチュエーションは、主に、新築や建替時。
昔は建築家からの直接の依頼が多かったけれど、最近は建築家を介さず、直接会社へ問い合わせをしてくるお客さまも増えている。
現在のサイトデザインは「黒」を基調としたシックな配色。
TOPページや内部ページにはテキストがほとんどなく、画像をメインに配置。
内部ページの「About」に、マツオカの企業理念などが短いテキストで紹介されているくらい。
コンバージョンポイント(成約ポイント)は、電話とメールフォーム。
フォームでは、
- 名前
- 性別
- 年齢
- 電話番号
- 住所
- メールアドレス
- URL
- 家具のタイプ
- 家具のサイズ
- 使用素材
- 色
- その他という名のメッセージ
を入力するようになっている。
フォームのプログラムは「Googleドライブ」で生成されるフォームを使用。
お問い合わせがあったお客さまに対しては、メールで折り返し返事をするようね。
お客さま一人一人に合わせて家具をデザインするビジネスだから当然ね。
見積額もそれぞれで違う。
・・・ぜ、全部記憶されているんですか??
あら、大切なお客さまのサイトだもの。これくらいの情報、記憶してしまうわ。
ふーん・・・。
あんたたちが言うダメ出しの理由がわかったぜ。
フォームのプログラムを変えろって言うんだろ?
たしかに、俺はPHPなどのコードが書けないし、うちのフォームのプログラムはGoogleドライブでつくった簡単なものだからな。
たしかに、このフォームは改善し甲斐があるな。
しかし、このフォームよりもっと先に、根本的に改善すべき点がある。
!?
・・・ヴェロニカ。
・・・OK、ボーン。
実はね、マツオカのサイトの過去をチェックさせてもらったの。
マツオカのサイトは、過去2回リニューアルされているわね。
ど、どうやってそんな情報を・・・?
・・・Wayback Machineだ。
ウェイバックマシン・・・?
・・・そこのPCを借りるぞ。
は、はい!
・・・!
危ないっ!!
みんな、離れて!!
ぐはああああ!!!
きゃあああっ!!
・・・こ、この風は・・・!?
・・・言うのが遅かったわ。
今のはボーンのキータッチから発生した風よ。
ボーンは日頃、40kgの特注ノートPCを使っている。
だから、普通のPCのキーボードを叩くと、すさまじい衝撃波が発生するのよ・・・。
・・・。
はっ!
こ、このサイトは・・・!!
「Wayback Machine(ウェイバックマシン)」というサイトよ。
このサイトでマツオカのサイトのURLを検索すれば、過去、どんなサイトだったかがわかるの。
こんな便利なサイトが・・・あるんですね・・・。
色々なサイトをアーカイブしているってわけか・・・。
マツオカのURLを調べてみると、過去に2回、リニューアルされたことがわかったわ。
ただ、どのリニューアルも、TOPのビジュアルや写真が変更された程度。
文章などのコンテンツは大きくリニューアルされていない。
ふ、ふん、リニューアルってものは、イケてないサイトがおこなうものさ。
あのさ、今のマツオカのサイト、“イケウェブ”っていうイケテルWebサイトばかりを集めているサイトで取り上げられたんだぜ。
この「黒」の使い方とかお洒落でクールだろ?
それでも、うちのサイトが“ダ・メ・なサイト”って言えるんですかね。
・・・お前はデザインとアートを混同している。
デ、デザインとアート!?
・・・マツオカのサイトの目的はなんだ?
・・・はああ?
そんな質問、誰でも答えられるさ。
“お問い合わせ件数を増やすこと”だろ?
そうよ。
ただ、今のサイトだとお問い合わせ件数が増える気配はないわね。
なっ・・・!!
・・・高橋くん、このサイトのアクセス解析はどれくらいの頻度で見てるの?
アクセス解析?
あっ、ああ、Googleアナリティクスのこと?
うーん、そうだなあ、大体1週間に1度くらい見てるよ。
どんなデータを重点的に見てるの?
えっ・・・。
どんなデータっていわれても・・・。
ちょ、直帰率とか、コンバージョン(成約数)とか、まあ、そのあたりだね。
「平均ページ滞在時間」は見ていないの?
へ?平均ページ滞在時間?
・・・平均ページ滞在時間・・・。
ユーザーがどれだけ長い間ページを閲覧していたかを示す指標だ。
・・・?
マツオカの平均ページ滞在時間は・・・37秒ね。
つまり、訪問してきた人は37秒しかページを見ていないっていうことですか・・・?
そうね。
もちろん、「マツオカ」というブランド名で検索してくるユーザーや、「オーダー家具」や「注文家具」などの一般ワードでアクセスしてくるユーザーなど、訪問者の属性によって滞在時間は変わるわ。だけど、37秒というのはさすがに短かすぎる気がするわね。
・・・。
お前が自分のデザインをクールだと思うのは勝手だが、17秒しか見られていないという現実も考えたほうがいいな。
ふん・・・。
たとえ17秒しか見られていないとしても、元々、文章とか少ないサイトなんだ。
ほかのサイトよりも見られる時間が短くなるのは当然だろ?
どうやら、お前はマーケティングの本質を見失っているようだ。
本質・・・!?
・・・一つ質問しよう。
お前はマツオカのオーダー家具を購入したことはあるのか?
・・・は?
ないよ、あるわけないだろ?
・・・なぜ、“あるわけない”なの?
はあああ!?うちの商品だぜ?
なんで、社員である俺が買うのさ?
そもそも、オーダー家具なんて、金持ちの購入するもんさ。
めぐみさんには悪いけど・・・、うちの給料、そんなに高くないし。
何より、俺んち賃貸だしな・・・。
・・・俺はこのマツオカでブナ材のテーブルを買った。
素晴らしい商品だった。
俺の細かな要望にも対応し、丁寧な仕上げられたそのフォルムにはマツオカの職人の魂を感じた。
あっ・・・!!
ボーンさん、先日はテーブルのご注文、本当にありがとうございました!!
気に入っていただけて・・・本当に嬉しいです!
・・・マツオカには良い職人がいるな。
・・・ありがとうございます・・・!!
・・・。
マツオカでは小さな家具も注文できるみたいだけど?
・・・。
何だよ、小さな家具くらいだったら、自分で注文してみろってこと?
えっ、そ、それはちょっと・・・。
高橋くん頑張ってくれてますし・・・。
彼にうちの商品を買わせるのは・・・。
めぐみさん、今のサイトが“売れないサイト”になっているのは、そこが原因よ。
えっ・・・?
お客さまの気持ちがわからない人には、お客さまが求めているサイトをつくれないの。
・・・いえ、つくれないというより、わからないのよ。
“お客さまが本当に求めている情報が何か?”ということに。
お客さまが本当に求めている情報・・・。
世の中には、お客さまの気持ちを理解して作られたサイトと、そうでないサイトがある。
残念ながら、多くのサイトが後者。
だから、私たちのような、第三者視点でアドバイスをするコンサルティング会社があるんだけどね。
・・・。
そして、残念ながら、現在のマツオカのサイトも後者。
ボーンが“自分で作ったサイトのほうが売れる”と言ったのは、大袈裟でもなんでもないのよ。
だって、ボーンは実際にこのお店で注文したんだから。
マツオカで家具を注文しようとする人の気持ちがわかるのよ。
む・・・・むああああああああああ!!!
・・・あのさあ!!むちゃくちゃだよ!!
なんだよ!!あんたら!さっきから言いたい放題!!
俺のデザインにダメ出しして、挙げ句の果てに、マツオカの家具を買えって!!?
ああ、マツオカの家具は確かにクオリティ高いよ!
リピーターもちゃんとついてるしな!!
でもな、できることと、できないことってのがあるんだ!!
なぜ“できない”の?
・・・!?
・・・高橋くん、あなた、家具は好き?
・・・か、家具は・・・嫌いじゃないけど、正直、特別好きっていうわけじゃない。
マツオカで働いているのも、好きだったWebデザインの仕事に就きたかったからさ。
マツオカの家具のクオリティは高いと思うけど、正直・・・他社と比べてどうかはよくわからない。
・・・まあ、でも・・・。
でも・・・?
・・・デスクには興味がある。
自宅の作業机には・・・こだわりたい・・・。
めぐみさん。
これは私たちからの提案なんだけど、高橋くんに臨時ボーナスとして、オーダー家具をプレゼントするのはどうかしら?
えっ・・・?
本当は自分のお金で購入するほうが良いんだけど、マツオカの家具はそれなりのお値段がするしね。
お客さまの心を知るには、自分がお客さまになるのが一番早いの。
欲しくないものを購入しても仕方がないけど、彼はデスクには興味があるみたいだから。私たちにコンサルティング料を払うことを考えたら安いはずよ。
そ・・・そうですね!
・・・じゃあ、高橋くん・・・。
臨時ボーナスで・・・見積額が30万円以内だったら、家具を注文してもらってOKということにするわ。
えっ・・・!!
ほ、ほんとですか・・・!?
うん、良いサイトを作ってもらうためだもの。
じゃあ・・・ちょっと俺、どんなデスクが良いか、考えてみます!
さーてと、うちのサイトをお客さま視点で見るとするかな。
待て。
!?
・・・マツオカで買えと言ったわけじゃない。
いろいろなサイトを見比べ、自分が注文したいと思ったサイトで注文するんだ。
えっ・・・それって・・・。
マツオカを選ぶ必要はない。
え・・・ええっ・・・!?
お客さまの気持ちを知るということは、お店を探す時の気持ちも知るということ。
お客さまがみんなマツオカのサイトを選ぶとは限らないわ。
・・・た、確かにそうだけど・・・。
い、良いんすか?
めぐみさん・・・。
えっ・・・。
・・・。
ヴェロニカさんの言うとおりだわ。
お客さまがどのような気持ちで家具のお店を選んでいるのか、そこを理解する必要があるということね・・・。
そうよ。
さすがね、めぐみさん。
・・・今から、1週間以内に注文しておけ。
但し、くれぐれも”情”には振り回されるな。
・・・わ、わかったよ。
た、高橋くん。
私、高橋くんがどこのお店を選んでも、大丈夫だからね!
は、はい、めぐみさん・・・、ありがとうございます。
ヴェロニカ、発つぞ。
OK、ボーン。
めぐみさん、今日はこれで帰らせていただくわ。
1週間後、また来るわね。
は・・・はい・・・!!
ボーンとヴェロニカは白い豹に乗り、喧噪の街へと消えていった。
めぐみさん・・・。
俺・・・。
良いのよ、高橋くん。
これで、あの人たちの言っていたことが、なんとなくわかったわ。
俺、実は最初、前々から気になっていた「KAGUJIN」っていうサイトで買おうと思ったんです。
KAGUJINは若者向けの家具をたくさん作っていて、デザインもクールなものが多くて・・・。
でも、検索して色々なサイトを見ているうちに、「KAGUJIN」がつくる家具のテイストに近い「デザラボ」ってサイトで注文したくなりました。
デザラボ・・・。このサイトね。
めぐみはそう言うと、検索エンジンで「デザラボ」と検索し、サイトを表示した。
えっ?
このサイトのデザインは・・・!?
はい・・・。
正直、このサイトを最初見た時、ダサいって感じたんです。
文章だらけだし、カラーセンスも一昔前の感じがするし。
でも・・・、うまく言葉に言い表せないいんですけど、このサイトから注文しようって思ったんです。
「KAGUJIN」と同じくらいクールな家具を作ってくれるんなら、「デザラボ」で注文するほうが良さそうだと感じたんです。
それは、あなたが”安心”を感じたからよ。
ヴェロニカさん!
めぐみと高橋が振り向くと、そこにはヴェロニカとボーンが立っていた。
一週間経ったわ。
無事にデスクを注文できたようね。
・・・まあ・・・ね。
・・・お前が選んだサイトは?
・・・。
・・・「デザラボ」というサイトさ。
俺・・・マツオカのサイトを選べなかった・・・。
なるほどね。
「デザラボ」は正直なところ、ビジュアル的に見栄えが良いサイトとはいえないわ。
文章が長々と掲載されていて、ゴチャゴチャしてる。
それに比べ、「KAGUJIN」のサイトはシンプルでお洒落。
でも、あなたは「デザラボ」のサイトを選んだ。
俺・・・なんていうか、30万もする買い物だから、失敗したくない・・・って思ったんだ。
最初は「KAGUJIN」みたいなカッコイイサイトで注文しようと思ったよ。
でもさ、カッコイイサイトになればなるほど、なんとなく不安に感じたんだよ。
お洒落すぎて人の気配がしないっていうかさ、「このお店はこっちの要望を嫌な顔せずに聞いてくれるだろうか?」とか、そんなことが気になり始めたんだ。
つまり、「KAGUJIN」のサイトには、あなたの心配をカバーする情報がなくて、「デザラボ」のサイトにはその情報があったってわけね。
確かに「KAGUJIN」のサイトには肝心の情報がほとんどなかった。
お洒落な写真はたくさん並んでたんだけど。その写真に関する説明が全然なくて・・・。
そっか・・・!
もしかして、Webサイトに必要な情報って・・・。
・・・「言葉」だ。
・・・!
言葉・・・。
言葉って・・・文章のことですか?
説明するより、実例を見せたほうが早いわね。
二人とも、Googleで「これはWebページです」というキーワードで検索してみてくれる?
「これはWebページです」・・・?
なんか変なキーワードだな・・・。
高橋とめぐみは、それぞれのPCの画面でヴェロニカに言われたキーワードをGoogleで検索した。
すると、白い背景に文字だけのページが浮かび上がった。
このページは・・・?
二人とも、何も考えずに、そのページに目を通してみて。
これはWebページです。
たいしたページではありません。あるのは言葉だけ。
それをあなたは読んでいます。オシャレなデザインや、レスポンシブなレイアウト、魔法のようなスクリプトに私たちは魅了されてしまいました。
でも、Webで一番強力な道具は、今も昔も言葉です。
私が書いた言葉を、あなたが読んでいる。
これこそ魔法です。私はブリティッシュコロンビア州の小さな都市にいますが、あなたは別のどこかにいることでしょう。
私は2013年6月20日の早朝にこれを書きましたが、あなたは違う日時にこれを読んでいることでしょう。
私はノートパソコンでこれを書きましたが、あなたは携帯電話でこれを読んでいるかもしれないし、タブレット端末やデスクトップ端末で読んでいるかもしれません。私とあなたがこうして繋がることができたのは、私が書いた言葉をあなたが読んでいるからです。
Webとはそういうものです。
場所や端末、タイムゾーンが違っても、このシンプルなHTMLページで私たちは繋がっています。私はテキストエディターでこれを書きました。
全部で6KBです。コンテンツ管理システムも使わなかったし、グラフィックデザイナーやソフトウェアディベロッパーにも頼みませんでした。
使われているコードも多くありません。
段落や構成、強調といったシンプルなマークアップのみを使っています。娘は8歳のときに私からHTMLを学びました。
一番最初に彼女が書いたのはリスの物語でした。彼女は「HTMLを書いていた」のではなく、世界中に何かを伝えようとしていたのです。
家のコンピューターで物語を書き、それを世界中に公開できるなんて、彼女には信じがたいことでした。
娘にとってはHTMLなんてどうでもよく、物語を伝えられればそれでよかったのです。あなたはまだこのページを読んでいます。
シンプルなページでも、伝えられることはたくさんあります。
もしあなたがビジネスパーソンならば、何かを売ることができるでしょう。あなたが先生ならば、何かを教えられるかもしれません。
あなたがアーティストであれば、自分が創ったものを見せることができます。そして、あなたが上手く言葉を使えたら、人々はそのページを読んでくれるでしょう。
もしあなたがWebデザイナーか、Webデザイナーのクライアントなのであれば、まずは言葉から考えてみてください。
スタイルガイドやフォトショップのモックアップからではなく、言葉から始めるのです。伝えたいことは何ですか?
それがなければ、余計なパーツをつけるのは無意味です。伝えたいことを一つだけ考えて、それを一つのページに落としこんでみてください。
公開した後でも、推敲を重ねてみてください。何かを足したいと思ったときは、「これを足すことによって、伝えたいことがもっとハッキリするだろうか?
この書体や画像、リンクは読み手の理解を助けるだろうか?」と自分に聞いてみてください。
もしも答えが「いいえ」であれば、足す必要はありません。Webデザインの本質は、言葉です。
言葉は、デザインをした後に考えるものではありません。
言葉はデザインの始まりであり、中心であり、主役なのです。言葉から始めましょう。
それでは。
ジャスティン・ジャクソン
(引用元(和訳):http://ellekasai.com/posts/this-is-a-web-page/)
(英文:http://justinjackson.ca/words.html)
言葉・・・。
Webデザインの本質は・・・言葉・・・。
そう、Webデザインの本質は「言葉」。
そして、Webマーケティングの本質も「言葉」。
・・・!!
世の中にはデザインが素敵で、モノがたくさん売れていくWebサイトはたくさんあるわ。
でも、人々は、その目に映ったデザイン以上に、そのサイトで描かれている“ストーリー”に心を動かされるの。
ストーリー・・・。
例えば、すごいセールスマン、セールスレディがいるとして、彼らのルックスはみんなタレント級かしら?
男前なセールスマンや、美人のセールスレディがいるとして、彼らの売上げが必ずしも高いということはないわよね。
商品を売るのが上手い人は、総じて、話をするのが上手い人よ。
つまり、言葉を使うのが上手い人。
た、確かに・・・。
人はモノを買うとき、その“モノ”自体が欲しいわけじゃない。
そのモノを手に入れることで得られる将来の“ベネフィット”に対してお金を払うの。
・・・そして、言葉をうまく使えば、そのベネフィットを伝えることができる。
ベネフィット・・・。
・・・俺が「KAGUJIN」ではなく、「デザラボ」で家具を注文したのは、デザラボのサイトの言葉に心を動かされたからだったのか・・・。
Webデザイナーの多くが誤解していること。
それは、ビジュアルの力だけで商品が売れると信じていることね。
確かに、商品のジャンルによってはビジュアルの力だけでも売れるケースはあるかもしれない。
でもね、ビジュアルの力だけでは表現できないものもあるのよ。
だからこそ、言葉が必要だ。
言葉・・・。
今まで言葉の力なんて考えたことがなかった・・・。
俺は、言葉をデザインできないWebデザイナーは、Webデザイナーではないと思っている。
・・・!
私はすべてのWebデザイナーを尊敬しているわ。
文章は誰にでも書くことができるけど、Webデザインは誰にでもできるわけじゃない。
デザインができるっていうのは“特別な力”なの。
でも、その“特別な力”のほうに頼りすぎると、“言葉”へのこだわりがおろそかになってしまう。
カッコイイデザインなのに商品が売れないWebサイトが多いのは、それが原因よ。
で、でもさ・・・、俺、最初に言ったように、文章を書くのが苦手なんだけど・・・。
「文章を書けない」ってことはないんじゃない?
だって、あなた、さっき自分がデスクを選んだ理由をしゃべってたじゃない。
しゃ・・・しゃべっていた・・・って言われても・・・。
あなたが喋ったことを、そのまま文章にするだけでも良いのよ。
文章を苦手と感じる人が多いのは、いきなり“上手な文章”を書こうとするから。
大事なのは“上手さ”じゃないの。相手の心に響く言葉を使えるかどうかなの。
現に、さっきのあなたの発言には、私の心に響く言葉がたくさんちりばめられていたじゃない。
だから、まずは“素直な言葉”で“素直な文章”を書くことを意識すると良いわね。
素直な文章・・・。
そう。素直な文章で十分。
誰も“作家になれ”なんて言ってないわ。
な・・・なるほど・・・。
PCの画面に向かうのではなく、ペンを持って紙に向き合ってみるのも良いわよ。
よし・・・!
あまり難しく考えず、トライしてみるぜ・・・!
あんたたちに言われてわかったぜ・・・。
オーダー家具を注文したことがWebデザイナーが、良いオーダー家具のサイトをつくれないように、言葉を大切にしたことのないWebデザイナーが、売上げの上がるサイトを作れるはずがなかったんだな。
そうよ。
よく理解したわね。
そう考えると、俺のつくったサイトはまるでダメだな・・・。
作り直したほうが良さそうだ・・・。
ははは・・・。
高橋くん・・・。
どうやら、お前はWebデザイナーとしてまだ腐っていなかったようだな。
・・・おっさん・・・。
よし。
今すぐ、ありったけの氷を用意しろ。
・・・まさか・・・!
・・・!?
・・・ボーン。
・・・やる気なのね・・・。
氷・・・って、何かを冷やす・・・つもりですか?
・・・あっ!
“鉄は熱いうちに打て”という言葉がある。
言葉の力を理解したお前たちに、Webライティングの真髄を教えてやろう。
ボーンのノートPCのCPUが火を噴くか、マツオカのWebサイトが生まれ変わるか。
始まるわよ、ボーンの“Webサイトリフォーム”が・・・!
闇に隠れ、市場を操る、謎のWebマーケッター「ボーン・片桐」。
いよいよ始まる彼のサイトリフォーム。
Webデザインの本質、そして、「言葉」の力に気付いためぐみ、高橋が見守る中、ボーンのPCがうねりをあげる!
果たして、ボーンのPCのCPUはサイトリフォームに耐えられるのか・・・!?
そんな中、ガイル社は不穏な動きを見せようとしていた・・・!
次回、沈黙のWebマーケティング第三話、
「Webライティングは二度輝く」
今夜も俺のインデックスが加速する・・・!