「みんなー!!
今日はオレたち、エリスリトールのライブに来てくれてサンキュー!!
最後に、オレたちの新曲、聴いてくれ!」
キャーッ!!
ムツミー!!
ねえ、今日のエリスのライブ、正直、どうだった・・・?
ぶっちゃけ、最近のエリスの曲って、ちょっと歌詞が意味不明じゃない・・・?
あー、わかる!わかる!
曲も複雑になっちゃってるし、一緒に歌いづらいよね・・・。
エリス、もう昔みたいにキャッチーな曲出してくれないのかな・・・。
出してほしいよね・・・。
でないと、私たちファンもついていくのがそろそろキッツイわ・・・。
・・・ムツミ、あの新曲、お客さんの心に響いてなかったぞ。
はあ?
なんでだよ?
あの新曲を聴いていたお客さんたちの表情を見たか?
明らかに困惑した表情で聴いていたぞ。
いや、あの新曲だけじゃない、ここ1年の間にエリスが発表してきた曲、すべてが空回りしているように感じる。
おいおい、じゃあ、なんでエリスにはファンがついてきてくれてるんだ?
・・・。
ファンの顔を見てみろ。
今のエリスのファンの多くは昔からのファンばかりだ。
エリスの楽曲がキャッチーだった頃からのな。
お前、気付いていないのか?
この1年間、エリスが新しいファンをほとんど開拓できていないことに。
・・・。
オレはお前たちのプロデューサーだ。
お前たちのバンド、「エリスリトール」を売り出す役を担っている。
だから、マーケティング的な視点は常にもち合わせているつもりだ。
今、お前たちのバンドが伸び悩んでいる理由はたったひとつしかない。
曲がファンのほうを向いていないんだ。
・・・はあ?
今のエリスの曲は、歌詞が複雑だし、メロディーもギミックが多すぎる。
何より、なんだ、あのギターの音は?
エフェクトをかけすぎて、ギターソロの旋律がわからなくなってるじゃないか・・・。
ファンを増やしたいのなら、ファンが求めているサウンドをもう少し意識したほうがいいぞ。
なんだよそれ、オレたちのバンドの個性をつぶせってことなのか?
オレたちのバンドなんだから、オレたちのやりたいサウンドを目指して何が悪いんだ?
ていうか、そもそも、ファンの耳が育ってねーんだよ。
ファンの感性がオレたちのレベルにまで達してねーのさ!
お前・・・。
ファンへの敬意はどこで失ったんだ?
はあ?
敬意?
なんだよ、それ。
お前、いつから、自分たちの音楽をファンに“聴かせてやる”と思うようになっちまったんだ?
そんなの当たり前だろ?
オレたちはアーティストだぜ。
アーティストが自己主張しなくてどーすんだよ!?
・・・お前はメジャーを目指しているんだろ?
ああ、そうさ。
オレたちの尖ったサウンドを、世の中に轟かせてやるんだ。
それなら、“聴かせてやる”という考えを捨てろ。
“聴かせてやる”というスタンスでステージに上がり続けるかぎり、お前たちは自分たちの曲を客観的に評価できなくなる。
大切なのは、“ファンに聴いてもらうにはどうすればいいか?”を考えることだ。
ファンが求めているものが何かを論理的に考えた上で、自分たちの個性を足していく。
それができてこそ初めて、メジャーのステージに立てるアーティストになれるんだ。
・・・ったく、めんどくせーな・・・。
・・・ムツミ・・・。
オレは別にお前たちの目指すサウンドを否定したいわけじゃない。
どんなものにも“個性”というものは必要だからな。
ただ、自分たちが奏でたいサウンドだけをがむしゃらに追い求めていてはダメだ。
ファンが何を求めているかを論理的に考えることは、表現のレベルを上げるための“土台作り”なんだ。
しっかりとした土台ができてこそ、個性ある表現は活きてくるんだ。
・・・っまんねーよ・・・。
何が“論理的に考える”だ・・・。
難しい言葉使ってんじゃねーよ。
自分たちが奏でたいサウンドを目指さなくて、何がアーティストなんだよ。
そんな難しいこと考えなくても、自分たちが気持ちよくて、ファンも気持ちよくなれるような曲を作ればいいんだろ!?
そういう曲、作ってやるよ!
だから、そのファンがすでにお前たちのサウンドについてこれていないんだぞ。
このままがむしゃらに曲を作り続けてもダメだ。
一度、自分たちのサウンドを客観的に見つめ直してみろ。
っせーな・・・。
もう、いいさ!
プロデューサーのあんたがオレたちのサウンドのよさを理解してくんねーんなら、話になんねー。
こんなレーベル辞めてやるよ!!
ムツミ!!
おいっ!!
どこへ行くんだ!!?
(・・・そうか、オレがプロデューサーと喧嘩してレーベルを辞めてから、もう1年が経つのか・・・)
(あのあとレーベルから独立したものの、結局オレはほかのメンバーともうまくいかなくなって、バンドは解散したんだったよな・・・)
(・・・ってなんで今、こんなこと思い出しちまったんだ)
論理とは、“物事の法則的なつながり”であり、「人と人との間に築かれた“理解の架け橋”」のことを指す。
論理的な文章とは、相手の心との間に“理解の架け橋”が築かれている文章を指す。
どんな主張も、相手の心との間に橋がなくては伝わらない。
論理というのは、相手に理解してもらうために築く“言葉の架け橋”のことなのだ。
(・・・そうか、昨日ボーンのオッサンが言ってたことが頭に残ってるからか)
(・・・「論理」・・・か)
はい、どうぞー。
あっ、ムツミ。
片桐さんが昨日の話の続きをするって。
あ、「オウンドメディア」ってやつの解説だっけ?
うん、そうみたい。
先に行ってるね。
・・・あっ、そのギター・・・。
ああ、これ、バンド時代にずっと使っていた相棒なんだよな。
ま、もうすっかり弾かなくなっちまったから、錆びついてっかもしんねーけど。
ははは。
・・・ムツミ、本当に後悔してないの?
ん?
大好きだった音楽活動を辞めて、うちの旅館の仕事を引き継いでくれたことよ。
な~に言ってんだよ、アネキ。
大丈夫だって。
そもそも、ここへはオレの意志で戻ってきたんだからさ。
実家がピンチのときに、ヘラヘラ音楽を楽しんでいるなんて、長男として世間様に顔向けできないだろ?
ぶっちゃけ、音楽活動には少し疲れてたし、今は旅館の仕事も楽しくやってるしな。
ならいいんだけど・・・。
オレ、お客さまへのメール返信がまだ終わってねえから、それを片付けてから向かうわ。
ボーンのオッサンには、あとで行くって伝えておいてくれよな。
あっ、こら!
ボーンのオッサンじゃなく、“片桐さん”でしょ?
固いこと言わなくてもいいじゃん。
なんか、“片桐さん”って言いづらくてさ。
ボーンって名前のほうが言いやすいだろ?
アネキも今日から“ボーンさん”って呼んでみろよ。
えっ・・・。
(ボーンさん・・・か・・・)
遅れてすまねえ!
ムツミ、お客さまへのメールの返信は大丈夫だった?
ああ、バッチシさ。
これでみんな揃ったわね。
・・・よし、昨日話した「オウンドメディア」の解説の続きを始めるぞ。
あ、そ、その前に・・・!
片桐さ・・・い、いえ、ボーンさん!
あの・・・、私たち、こんなにアドバイスをもらい続けていいんでしょうか?
・・・。
ボーンさんはうちの旅館のお客さまですし、やっぱり、このままコンサル料をお支払いせずにアドバイスをもらい続けるのは申し訳なく思っていて・・・。
なるほどね。
たしかに、当初よりもアドバイスの量が増えてきちゃった感はあるわね。
(・・・ちょ、ちょっと、アネキ!
ボーンのオッサンのコンサル料は1時間5万ドルなんだぞ!?
日本円に直すと、1時間で500万円以上なんだぜ・・・!?)
(わ、わかってるわ・・・!
でも、このままタダで私たちがアドバイスをもらい続けるのは、虫がよすぎるんだもの・・・)
(んなこと言ったってだな・・・。
正規の料金を払ったら、うちの旅館、破産しちまうぜ・・・)
・・・ボーン、どう思う?
たしかに、お前たちの言うとおりだ。
このままオレがノーギャラでアドバイスを続けるのはメリットがないな。
!!!
(ボーン・・・!?)
そ、そうですよね・・・!!
本当にすいません・・・!!
私たち、今はあまりお金がないんですが、ボーンさんたちのおかげで、うちの経営状態は徐々によくなってきました。
この流れを絶対に止めたくないんです・・・!
だから、銀行からお金を借りてでもコンサル料はご用意します・・・!
あ、あと、もちろん、今回のご宿泊中のお代も要りません・・・!
(アネキ・・・)
・・・コンサル料は要らん。
宿代の負担も必要ない。
えっ・・・!!?
(!?)
代わりに、お前たちに頼みたいことがある。
(代わりに頼みたいこと・・・?)
オレたちは今、“あるモノ”を探している。
その捜索をお前たちにも手伝ってもらおう。
“あるモノ”・・・!?
ヴェロニカ、例の“チップ”のことをふたりに説明してくれ。
えっ・・・?
(ボーン、あなたはこのふたりを信用したってことなのね)
・・・サツキさん、ムツミさん。
これから話すことは、くれぐれも私たちだけの秘密にしてね。
・・・は、はい!
私たちはね、この須原に、ある“チップ”を探しにやって来たの。
チップ・・・!?
写真を見せるわ。
こんなチップよ。
・・・?
このチップがどうしたって言うんだ・・・?
・・・それは言えん。
えっ!?
やべーもんじゃねーだろうな!?
ふふふ。
安心して、ただのチップだから。
ほ、ほんとかよ・・・。
(ただのチップなんだったら、なんでそんなに秘密にしようとするんだ・・・?)
とにかく、もし、このチップを見つけたら、私たちにすぐ教えてほしいの。
このチップの大きさは3平方センチ、重さは100gほど。
小さなチップだから、見つけ出すのは大変かもしれないけれど・・・。
わかりました!!
お手伝いさせてください・・・!!
あ、もしかして、このチップがうちの旅館にあるかもしれない、ってことでしょうか?
いえ、この旅館にあるかどうかはわからないの。
ただ、このチップに埋め込まれていたGPSの信号から位置を計算したところ、この旅館から半径150m以内の場所にあるということだけはわかっているわ。
この旅館の半径150m以内・・・。
ということは、ここにあるかもしれないし、となりの旅館にあるかもしれないってことか・・・。
半径150m以内だったら、裏山や川の中も含まれるかも・・・。
あ、チップは防水性じゃないから、“川の中にある”という可能性はないわね。
そうなんですね・・・。
でも、なぜ、この須原にお探しのチップがあるんですか?
もしかして、誰かお客さまの荷物に紛れてここまで運ばれてきた、とかでしょうか・・・?
それはわからないの。
だから、私たちも首をかしげているのよ。
ただ、もし、誰かの荷物に紛れ込んでいるのなら、そのお客さんが移動すると同時に、GPS信号も別の位置を示すはずだわ。
でも、信号が示している場所は変わっていない。
唯一わかっていることは、22日前、この須原にチップが移動したってことだけなの。
不思議な話だな・・・。
ただ、チップのGPS信号の精度は日に日に落ちている。
どうやら、チップの内蔵電池が残り少ないようなの。
・・・内蔵電池が切れると、場所の特定ができなくなってしまうわ。
えっ・・・!?
早く見つけねえと、マズイってことか・・・。
わ、わかりました・・・!
とにかく、そのチップを私とムツミとで一生懸命探します!
ありがとう、サツキさん。
・・・チップの内蔵電池が切れるまで、おそらく、あと55日。
55日・・・!?
タイムリミットまでに見つけるためにも、協力を頼んだぞ。
はいっ・・・!!
ちなみに何度も言うが、このチップの話は他言無用だ。
・・・わかったな?
(ビクッ)
は、はい・・・!
あ、ふたりとも、チップを捜索してくれるのはありがたいんだけど、くれぐれも本業には差し支えない範囲でね。
わかりました!
(チップか・・・。
一体何のチップなんだろ・・・。
気になるぜ・・・)
・・・さて、話を戻すぞ。
ヴェロニカ、「オウンドメディア」の説明を頼む。
OK、ボーン。
(オウンドメディア・・・)
ふたりとも、今から私が話す「オウンドメディア」という言葉は、この須原の観光をよみがえらせる“カギ”となる言葉よ。
須原の観光をよみがえらせる“カギ”・・・!?
「オウンドメディア」とは、直訳すると、“自社が所有し運営するメディア”のこと。
あなたたちには観光情報サイトの運営をオススメするわ。
観光情報サイトを私たちが運営・・・?
そうだ。
須原の観光がよみがえるためには、観光地としての須原の魅力を多くの人に知ってもらう必要がある。
しかし、今、Web上には須原の魅力を広く伝えられているサイトが少ない。
えっ!?
須原には一応、観光協会のサイトがあるぜ?
たしかに、須原観光協会のサイトはある。
しかし、あのサイトはあくまでも、須原に興味をもったユーザー向けに作られている。
つまり、須原のことを知らないユーザーがアクセスをすることはまずない。
須原のことを知らないユーザー?
お前たちが運営する観光情報サイトは、須原のことを知らないユーザーに須原のことを知ってもらうために運営するんだ。
えっ・・・!?
露出を戦略的に増やすぞ。
露出を戦略的に増やす・・・!?
ふたりとも、「コンテンツマーケティング」という言葉を聞いたことがあるかしら?
コンテンツマーケティング・・・?
コンテンツマーケティングとは、“コンテンツを通して、読み手に新たな気付きを与える”マーケティング手法だ。
読み手に新たな気付きを与える・・・?
たとえば、人気の観光情報サイトに「カップル向けの温泉旅館特集」という記事があったとして、その記事に須原の旅館が取り上げられていたらどうかしら?
須原のことを知らない人も、須原にはカップル向けの温泉旅館があることを知るでしょ?
は、はい。
先日作ったコンテンツは、「栃木 温泉」というキーワードでの上位表示を狙ったものだった。
「栃木 温泉」で検索したユーザーに対し、須原の旅館「みやび屋」の情報を伝えることで、みやび屋の存在、そして、みやび屋の魅力に気付かせる狙いがあった。
ただ、「栃木 温泉」というキーワードで集客する場合、栃木の温泉に興味のあるユーザーばかりが訪れることになってしまう。
つまり、集客できるユーザーが少ない。
よって、次に作るコンテンツでは、「栃木 温泉」というキーワード以外での上位表示を狙う。
「栃木 温泉」というキーワード以外・・・!
たとえば、あなたたちが作るコンテンツが、「温泉旅行 カップル」「温泉 夫婦旅行」などのキーワードで上位表示できれば、須原のことを知ってもらえる機会が増えるってことよ。
ちょ、ちょっと待ってくれよ!
たしかに、「温泉旅行 カップル」ってキーワードで上位表示できれば、今より露出できるとは思うけど、「みやび屋」は「親孝行向けプラン」を推していくことに決まったんだぜ。
「温泉旅行 カップル」なんてキーワード、うちと関係ねーじゃねーか!
相変わらず考えが浅いな。
今回の戦略は、あくまでも“須原全体の利益”を考えろ。
須原にはカップル向けプランに力を入れている旅館が多いはずだ。
須原全体の利益・・・。
ちなみに今、「温泉旅行 カップル」というキーワードで1位に表示されているページがこれよ。
「マンネリ化したカップルは温泉旅行すべし!オススメのカップル向け温泉旅館 11選」
このページ、全国からオススメの温泉旅館の情報を集めているんですね。
へー、この記事のサイトのデザイン、雑誌みたいにオシャレだな。
この「TRAVEL UP」というサイトは、国内の旅行に関するいろいろな情報を取り上げているメディアみたいね。
たとえば、このサイトのトップページには以下のような記事が表示されているわ。
- 都心から2時間以内!忙しい人でも気軽に行けちゃう人気の日帰り温泉10選
- 謎好きカップルが伝授する!リアル脱出ゲームを楽しむための7つの心得
- マンネリ化したカップルは温泉旅行すべし!オススメのカップル向け温泉旅館 11選
- 北海道は極上スイーツのパラダイス!ルタオや六花亭など、本店でしか食べられないスイーツ10選
- 職場で人気者になれるかも!?あっと驚かれる旅行土産ベスト 5
- もっちりふっわふわの厚焼きパンケーキが美味しすぎる!京都のパンケーキ専門店「MATSUO」が激アツ!
- 【世界一の観光都市】京都を楽しめ!京都通が厳選する1泊2日の旅行プラン
へええ・・・。
温泉旅館に関する情報だけじゃなく、グルメやイベント情報なども扱ってるのか・・・。
そのようね。
この「TRAVEL UP」は、「旅行」というテーマを軸にしつつも、いろいろなジャンルの情報を取り上げている。
旅行に関係のないキーワードでも上位表示させることで、ゲリラ的に多くのユーザーを集客しているみたいね。
ええっ、そんなの意味あんのか・・・?
旅行情報サイトなのに、旅行に興味のない人を集客しても仕方がない気が・・・。
まあ、この「TRAVEL UP」というサイトは広告収益がメインみたいだし、ページビュー(PV)さえ集まればいいという考え方なのかもね。
あとは、「旅行」というテーマは老若男女、皆が興味のあるテーマだから、ゲリラ的に集客したあと、旅行に関する商品を訴求するという狙いもあるのかも。
へええ・・・。
それにしても、このサイトすごいですね・・・。
すごくたくさんの記事がアップされています・・・。
こんなサイトを私たちが運営するのは大変そうですね・・・。
そうね。
あなたたちには旅館の経営という大事な仕事があるしね。
でも、安心して。
そうよね、ボーン?
ああ。
みやび屋が作るメディアは、“ショートカットプラン”でいくぞ。
ショートカットプラン!?
そうだ。
みやび屋が作るメディアは「量」ではなく「質」の戦略でいく。
量より質・・・!?
ひとつひとつの記事の狙いを明確にし、ムダな記事を投下せず、確実に成果をあげていくぞ。
確実に成果をあげていく・・・?
「TRAVEL UP」の真似をする必要はないわよ。
だって、あなたたちのメディアの目的は、広告収益を得ることではなく、須原という温泉地のことを多くの人に知ってもらうことだもの。
「TRAVEL UP」みたいにいろいろなジャンルの記事を扱わなくてもいいの。
あなたたちのメディアは、温泉に関連したキーワードで上位表示さえすれば、目的を達成できるんだから。
温泉に関連したキーワードで上位表示・・・!
「温泉旅行 カップル」「温泉 夫婦旅行」とかで上位表示させるってことだな!
そうよ。
これまで私たちが教えてきたとおり、それらのキーワードで検索する人の意図を満足させられれば、上位表示は難しくないわ。
温泉関連のキーワードで検索するユーザーを徹底的に満足させることを考えましょう!
はいっ!!
ただし、今回のオウンドメディアの目的は須原を多くの人に認知してもらうことだ。
ある程度のアクセスを集めないと、その目的は達成できない。
よって、検索経由のアクセスを増やすために、上位表示を狙うキーワードが“月に何回検索されているか?”という「検索回数」を意識しろ。
あっ・・・!
そっか・・・!
検索回数・・・?
その数字はどうすればわかるんですか・・・?
へっへーん。
アネキは知らねーだろうけど、Googleが提供してる“あるツール”を使えば、その数字はわかっちゃうんだよな。
(オレもSEOについて学んだし、それくらい知ってるさ)
そうだ。
そのツールとはこれだ。
サーチ オブ 「温泉 カップル」
この画面は・・・?
これはGoogleが提供している「キーワードプランナー」というツールの画面だ。
「キーワードプランナー」とは、Googleが提供している、検索キーワードごとの月間検索回数を教えてくれるツールである。
このツールは元々「Googleアドワーズ」という検索連動型広告を出稿する際に使われるものだが、このツールで得られるキーワードごとの月間検索回数は、SEOをおこなう上でも参考になるのだ。
この「キーワードプランナー」を使えば、検索キーワードごとの月間検索回数がわかるの。
たとえば、「温泉 カップル」というキーワードだと2,900回で、「温泉 関東 カップル」というキーワードだと1,600回というように。
そんな便利なものがあるんですね・・・!
ふふふ。
このツールの画面でいろいろなキーワードを入力してみると面白いわよ。
え・・・と、じゃあ、「夫婦 旅行 おすすめ」っていうキーワードで検索してみます。
あっ!
260回検索されています!
ということは、「夫婦 旅行 おすすめ」というキーワードで上位表示したページで、みやび屋の「親孝行プラン」を紹介すれば、月に260人くらいの人に見てもらえるってことですね!
・・・それは甘い見積もりだ。
1位をとったとしても、実際はその検索回数の30%ほどのアクセスしか集まらないことが多い。
なぜなら、すべてのユーザーが検索結果の1位をクリックするとは限らないからな。
・・・!!
そ、そうなんですね・・・!
キーワードにもよるけど、一般的には検索結果1位のページは30%ほどのクリック率になることが多いの。
ただ、キーワードプランナーのデータはあくまでもGoogleだけのデータだから、Yahoo!のデータも想定すると、トータルの検索回数はツールに表示された数の2倍くらいを想定するといいわ。
だから、もし、「夫婦 旅行 おすすめ」というキーワードで1位をとったとすると、260×2×30%ということで、160くらいの想定アクセス数になるかしら。
(へええ、そんなふうに計算するんだ・・・)
通常、検索結果におけるクリック率は1位と10位とで大きく異なる。
ボーンたちは1位のクリック率を30%と想定したが、そのクリック率はあくまでも一般的なキーワードを想定した場合である。
たとえば、「みやび屋」などのブランド名検索の場合、1位にそのブランドのサイトが表示されているのであれば、クリック率はもっと高くなることが予測される。
つまり、クリック率はキーワードの種類によって異なる。
(ちなみに、ボーンが使った30%という数字は、彼の過去の知見から導き出した予測値である)
もし、検索順位ごとのクリック率について興味があるのなら、以下のMozのサイトを見るといいだろう。
ただし、クリック率には絶対的な指標がなく、どのサイトにおけるデータも、あくまでも参考値として捉えることをオススメする。
あ、さっき、サツキさんは、「夫婦 旅行 おすすめ」というキーワードで上位表示したページでみやび屋の紹介をするって言っていたけれど、今回作るオウンドメディアは、あくまでも“須原という温泉地を広く知ってもらうこと”が目的よ。
そのためには、みやび屋だけでなく須原のほかの旅館の宣伝にもつながるコンテンツを考えなくちゃね。
あっ・・・そうでした・・・。
ひとまずは、みやび屋の売上げにつながるキーワードのことは置いておいて、須原の宣伝につながりそうなキーワードを探してみない?
わかりました・・・!
あっ!
だったらさ、「露天風呂」ってキーワードはどうだい?
月に12,000回も検索されてるぜ。
月に12,000回!
だとすると、えーと・・・たしか、12,000×2×30%という計算で・・・。
7,200!!
すごいアクセスが期待できるわ!!
そうね。
1位をとれれば・・・の話だけれど。
夢を壊すようでゴメンなさい。
「露天風呂」というキーワードで1位をとるっていうのはちょっと大変かもよ。
なぜなら、競合のページが強いから。
競合のページが強い・・・?
えっ・・・!?
検索ユーザーの検索意図さえ満足させれば、どんなページでもカンタンに上位表示できるんじゃないのかよ!?
たしかに、どんなキーワードでも、検索ユーザーの検索意図を満足させることで、上位表示を狙うことはできるわ。
ただ、「露天風呂」と実際に検索すればわかると思うけれど、このキーワードの場合、検索ユーザーが満足するようなページがたくさん上位表示されている。
しかもそれらのページは、どれもそれなりに強いドメインで展開されているわ。
つまり、「露天風呂」というキーワードで上位表示するということは、それらの強力なページと闘うことになるの。
むむっ・・・。
た、たしかに、すごいページばかりだ・・・。
どのページも情報がしっかり集められてる・・・。
・・・。
「見やすさ」や「わかりやすさ」だけでは闘えそうにないですね・・・。
そうよ。
アクセスが期待できるキーワードほど、ライバルも気合いを入れてコンテンツを作っていることが多いわ。
もちろん、だからといって「露天風呂」というワードで絶対に1位をとれないというわけではないんだけれど。
ただ、せっかくコンテンツを作るのなら、最初はある程度勝機のあるキーワードを狙っていくほうがいいかもね。
勝機のあるキーワードかどうかって、どうやったらわかるんだ・・・!?
カンタンよ。
上位表示を狙いたいキーワードが見つかったら、そのキーワードで検索し、検索結果の1ページ目に表示されているページをチェックして、“自分たちがそれらのページよりも検索ユーザーを満足させられるコンテンツを作れるかどうか?”を自問自答してみればいいの。
なるほど・・・!
(そういや、以前もらったマインドマップでも、1位から10位までのページについて分析されていたな・・・)
基本的には検索結果の2ページ目以降は見なくてもいいわ。
なぜなら、上位表示を狙うのなら、1ページ目に入ることを目指すべきだから。
2ページ目だとやっぱりダメなんですか・・・?
ええ、そうよ。
1ページ目に表示されるのと2ページ目に表示されるのとでは、アクセス数に雲泥の差が出てしまうから。
そんなに差が出るんですね・・・。
そして、1ページ目に上位表示している競合のページをチェックするときは、なぜそれらのページが上位表示しているのか?を徹底的に考えるんだ。
その裏にこそ、検索ユーザーの検索意図を満足させるための答えが隠されている。
検索ユーザーの検索意図を満足させるための答え・・・。
・・・。
なぜ?なぜ?なぜ?を繰り返し考え、突き詰めれば、そこに光明が見えてくる。
SEOに強いコンテンツを作るためには、“論理的思考”、すなわち、“ロジカルシンキング”が重要だということを忘れるな。
論理的思考・・・。
(そういやあのときも・・・)
・・・お前はメジャーを目指しているんだろ?
ああ、そうさ。
オレたちの尖ったサウンドを、世の中に轟かせてやるんだ。
それなら、“聴かせてやる”という考えを捨てろ。
“聴かせてやる”というスタンスでステージに上がり続けるかぎり、お前たちは自分たちの曲を客観的に評価できなくなる。
大切なのは、“ファンに聴いてもらうにはどうすればいいか?”を考えることだ。
ファンが求めているものが何かを論理的に考えた上で、自分たちの個性を足していく。
それができてこそ、プロだ。
それができてこそ初めて、メジャーのステージに立てるアーティストになれるんだ。
・・・ったく、めんどくせーな・・・。
・・・ムツミ・・・。
オレは別にお前たちの目指すサウンドを否定したいわけじゃない。
どんなものにも“個性”というものは必要だからな。
ただ、自分たちが奏でたいサウンドだけをがむしゃらに追い求めていてはダメだ。
ファンが何を求めているかを論理的に考えることは、表現のレベルを上げるための“土台作り”なんだ。
しっかりとした土台ができてこそ、個性ある表現は活きてくるんだ。
・・・っまんねーよ・・・。
何が“論理的に考える”だ・・・。
難しい言葉使ってんじゃねーよ。
自分たちが奏でたいサウンドを目指さなくて、何がアーティストなんだよ。
そんな難しいこと考えなくても、自分たちが気持ちよくて、ファンも気持ちよくなれるような曲を作ればいいんだろ!?
そういう曲、作ってやるよ!
だから、そのファンがすでにお前たちのサウンドについてこれていないんだぞ。
このままがむしゃらに曲を作り続けてもダメだ。
一度、自分たちのサウンドを客観的に見つめ直してみろ。
っせーな・・・。
もう、いいさ!
プロデューサーのあんたがオレたちのサウンドのよさを理解してくんねーんなら、話になんねー。
こんなレーベル辞めてやるよ!!
ムツミ!!
おいっ!!
どこへ行くんだ!!?
・・・あのさあ、せっかくのアドバイスに水を差すみたいで悪いんだけどさ・・・。
?
なぜ?なぜ?なぜ?って、そんなふうに分析して作ったコンテンツが、本当に人の心を動かすのかよ?
あんまり考えすぎると、読む側はかえってどこかで冷めちまうんじゃねえのか?
ム、ムツミ、急にどうしたの?
だってさ、今の検索結果で上位表示してるページを分析するってことは、オレたちが作るコンテンツは結局競合のページに近いものになりそうじゃん?
えっ・・・?
そ、それはそうなのかもしないけれど・・・。
冷静に考えればさ、そんなの検索ユーザーは求めてないんじゃねーの?
前にボーンのオッサンが言ってたように、もっと“オリジナリティ”を出すことが大事なんじゃねーのか?
上位表示するページが似たようなページばっかりになったら、オレだったらウンザリするね。
えっ・・・。
・・・。
だからさ、あえて、ほかの競合とは違う形で、検索ユーザーの心に刺さりそうなコンテンツを考えるといいんじゃねーの?
そのためには、競合の分析ばかりするのはどうかと思うんだよね。
分析はそこそこにしておいて、自分たちの個性を活かしたコンテンツを作る、とかさ。
そうだ、ボーンのオッサンたちは昨日、“感情が大事”って言ってたよな?
そうさ、感情さ!
論理とかややこしいことを考えるよりも、感情を込めたコンテンツこそが大事じゃねーのか?
片桐さんのタイピング音が、まるで音楽のように聞こえてきます・・・!
ふふふ。
そう聞こえるのはね、ボーンが今、ムツミさんが書いた文章を感情を込めてリライトしているからよ。
感情・・・!?
ええ。
人の心を動かすためには「感情」が必要だから。
・・・。
“自分たちの個性を活かしたコンテンツを作る”、その考えには賛成だ。
・・・おっ!
やっぱ、そうなんじゃん!
ただし、“感情の赴くままに作る”ということには反対だがな。
えっ・・・!?
ムツミとやら、たしか、お前は元ミュージシャンだったな。
・・・ああ、それがどうしたってんだ。
・・・お前がミュージシャンとして大成しなかった理由がわかった。
!?
い、いきなりなんだよ!!
オレのミュージシャン時代の話は関係ないだろ!?
お前はものづくりにおいて、論理的思考は二の次だと考えている。
それでは何をつくったとしても、多くの人の心には届かない。
は、はあ??
お前はエンターテインメントの“本質”が何かを考えたことはあるか?
エンターテインメントの本質・・・?
人々を感動させる音楽や映画、マンガ、小説。
そういったものは一見、作者の感情の赴くままに作られているように見えるかもしれん。
しかし、実際のところ、それらは、徹底した論理的思考、すなわち、ロジカルシンキングの上で作られているのだ。
えっ・・・!?
たとえば、
どのような歌詞を書けば、リスナーの心に響くのか?
どのような構図で撮れば、観客の記憶に残るのか?
どのような展開にすれば、読者の心を高揚させられるのか?
プロの作り手はそういったことを考えるために、客のことを徹底して分析している。
だからこそ、彼らは多くの客に受け入れられるコンテンツを作り続けることができるのだ。
・・・!
論理的思考を重ねたコンテンツだからこそ、その上に自分の“個性”という名の感情を乗せられる。
相手に受け入れ体制がない状態で、感情という名の“飛行機”を飛ばしたところで、その感情は相手の心には着陸できない。
まずは、相手の心のどの場所に、こちらの感情の“受け入れ先”があるのかを冷静に判断するのだ。
それこそが論理的思考が必要な理由だ。
相手の心の中に、こちらの感情の“受け入れ先”を探す・・・。
そして、そのために大切となるのが、相手への“愛情”をもつことだ。
愛情!?
相手が求めるものを考え抜くためには、相手に対して誠実な関心を寄せる必要がある。
それはまさに、相手に対する“愛情”にほかならない。
!!
相手への愛があるからこそ、感情は伝わる。
相手への愛があるからこそ・・・感情は伝わる・・・。
(・・・な、なんだ、この心の奥底に響いてくるメッセージは・・・)
相手が求めるものをどれだけ論理的に分析するか?ということは、すなわち、相手にどれだけの愛を注げるか?ということと同義だ。
つまり、観客が求めるものを届けられる一流のエンターテイナーは、観客への愛にあふれているのだ。
!!!
(・・・そ、そうか・・・。
オレが音楽で成功しなかった理由・・・。
客から見放されてしまった理由・・・)
いいものを見せてやろう。
今から見せるマインドマップは、オレがコンサルティングをしている企業のあるWeb担当者が作ったものだ。
そのWeb担当者は、ひとつの記事を書くために、毎回このようなマインドマップを必ず作っている。
な・・・なんだこりゃ!!?
す、すごい情報量です・・・!!
このWeb担当者は毎回、読み手が必要とする情報が何かを徹底的に考えた上で記事を書いている。
このマインドマップがその思考の証だ。
そして、このようなマインドマップは、読み手への愛なくして作れるものではない。
読み手への愛・・・!
相手が何を求めているのかさえわかれば、こちらの感情を注げる場所も見えてくる。
それが見えれば、お前たちの個性を活かしたコンテンツ、すなわちお前たちの感情を活かしたコンテンツも、受け入れられやすくなるだろう。
・・・。
・・・わかったよ・・・。
論理的思考が必要だってこと・・・。
わかればいい。
“感情的な演出は、論理という土台の上でこそ成立する”ということを覚えておけ。
“感情的な演出は、論理という土台の上でこそ成立する”・・・!
話はここまでだ。
論理的思考の必要性を知ったお前たちに課題を与える。
課題・・・?
ムツミとサツキ、お前たちに3日やる。
それぞれ、オウンドメディアに投稿する記事のアイデアを考えてみろ。
えっ・・・!?
ちょ、ちょっと待ってくれよ。
アネキまで記事を書くのか?
記事を書けとまでは言わん。
ただ、アイデアは多い方がいい。
サツキなら、アイデアくらいは出せるだろう。
アイデア・・・。
か、考えてみます・・・!
ちょっと、アネキ、大丈夫かよ・・・?
考える暇なんてあるのか?
大丈夫よ!
ムツミにばかり頼ってちゃいけないし。
よし。
では、ふたりとも、「須原の温泉地としての魅力を、幅広いユーザーに気付いてもらうための記事」のアイデアを考えてみろ。
ちなみに、この訓練はお前たちの思考力を高める訓練でもある。
互いに相談することはせず、ひとりきりで考えることが条件だ。
(ひとりきり・・・か)
了解したぜっ!
承知しました!
うーん・・・。
どんなアイデアにすっかな・・・。
アネキ、ちゃんとアイデア思い付いてんのかな・・・。
まあ、とにかくは、キーワードプランナーでキーワードを調べたあとに、検索結果で上位表示されてるページの分析だな。
うーん・・・。
アイデアを考えるのって本当に難しいわ・・・。
たしか、大事なのは読み手への愛だったわね。
読み手が欲しがっている情報を、愛を込めて提供する・・・か。
愛・・・。
愛・・・。
・・・あれっ、もしかして、このアイデアいけるのかも・・・!
ボーン、あのふたり、大丈夫かしら。
さあな。
まあ、サツキは大丈夫だろう。
問題はムツミだな。
・・・やっぱり。
ムツミは論理的思考の本質にまだたどり着けていない。
論理的思考とは、「なぜ?」を考えるだけでなく、「どうなるか?」も考える必要があるからな。
ムツミはこれからこの旅館を引っ張っていかねばならない。
そのとき真に必要となるのは、「なぜ?」という“原因を突き詰める力”だけでなく、「どうなるか?」という“結果を予測する力”なのだ。
結果を予測する力・・・。
・・・。
ふははははは・・・!
そうか、「TRAVEL UP」の月間PV数が1000万を超えたか!
遠藤様、素晴らしいですね・・・!
ふはははは。
これほどまでにカンタンにPVを伸ばせるとはな。
キュレーションメディアというのは、なんとラクなものよ。
井上だ。
・・・うむ、うむ、よし、削除したか。
遠藤様、「TRAVEL UP」の外部ライターが作った「栃木の温泉旅館まとめ」に須原の温泉が入っていたため、削除させました。
よし。
その調子で、我が社の全メディアから「須原」の文字を消してしまうのだ。
温泉地としての須原の知名度をどんどん下げていってしまえ。
ははーっ!
僭越ながら、遠藤様。
やはりヤン様はあの旅館を・・・。
ああ、ヤン様はみやび屋をつぶすおつもりだ。
あの小娘も運が悪かったようだな。
ヤン様に狙われてしまってはもう逃げられない。
本当に恐ろしいお方だ。
おっしゃる通りで・・・。
くくく・・・。
ボーンよ、今度ばかりはお前もおしまいだ。
我々の手のひらの上で滑稽に踊るがよい。
はーっはっはっはっは!!!
ボーンとヴェロニカが説いた「論理的思考(ロジカルシンキング)」の大切さ。
その教えのもと、ムツミとサツキは記事のプランニングに挑戦し始める。
しかし、ボーンはムツミの姿勢にある危機感をもっていた。
果たして、みやび屋のオウンドメディアは無事に立ち上がるのか?
そして、そのメディアは、須原の危機を救うのか?
次回、沈黙のWebライティング第5話。
「秩序なき引用、失われたオマージュ」
今夜も俺のタイピングが加速するッ・・・!!