追憶の中に紡がれた言葉たち。
モノトーンの風景を照らすヘッドライトのような口跡。

それらは現実を呼び起こすのか、陽炎を見せるのか。

Webという名の漆黒の闇は
眠らぬ者をあざ笑うかの如く、言の葉を鎖につなぐ。

さあ、行こうか。
新たな戦いの地へ。

沈黙のWebライティング PAFE01「SEOライティングの鼓動」

病院の中

	サツキ(シルエット)

お父さん!!お母さん!!
目を開けてよ・・・!!

医者

残念ながらおふたりはもう・・・。

ムツミ(シルエット)

親父・・・!
お袋・・・!

	サツキ(シルエット)

私・・・まだまだ、お父さんたちに教えてほしいことがたくさんあるのに・・・!!
なんで、私たちを置いて逝っちゃうの・・・!!!

ねえ・・・なんで・・・!!

客

・・・かみ・・・若女将・・・?

サツキ

・・・あっ!

客

どうしたんだ?
今、ボーッとしてたよ。

サツキ

も、申し訳ありません・・・!

客

いやいや、大丈夫かい?
疲れているんじゃないか?

むふぅ~、いやはや、しかし、この“みやび屋”の料理はいつ食べても美味いな。

サツキ

ありがとうございます・・・!
お気に召していただき、大変恐縮です。

あっ、こちら、よろしければ、当館からのサービスでございます。

客と談笑しながら、地酒の「喝采」を出す、若女将

客

おっ!
こりゃあ、須原の地酒「喝采」じゃないか!
ほおおお、こりゃあうれしいね。

客

・・・しかし、サツキちゃん。
本当に大変だったな。
まさか、大旦那と女将があんなことになってしまうとはな・・・。

あの事故からもう半年か・・・。

サツキ

・・・はい・・・。

客

おっと、すまねえ。
つい酒が回ってしまってベラベラと・・・。
ツラいことを思い出させてしまった。

この旅館はな、オレにとって、思い出の旅館なんだ。

須原の中で3つの指に入る温泉旅館「みやび屋」。
サツキちゃんも知ってのとおり、オレはこの旅館に毎年一回は宿泊している。

というのも、この旅館はオレにとっての思い出の旅館なのさ。

最初に訪れたのは、嫁さんとの新婚旅行だった。

あの頃、オレたち夫婦は貧乏で、海外へ旅行なんてとてもじゃないけど行けなかった。
そこで、国内で旅行先を探し、ガイドブックで知ったこの須原を訪れることにしたんだ。

「新婚旅行で来た」と言ったオレたちのために、ここの旦那はとびきりのご馳走を用意し、心から歓迎してくれたんだぜ。

そんな旦那の懐の深さに惚れたオレは、それ以来、毎年この時期になると、この宿を訪れることにしているのさ。

サツキ

そうでしたか・・・。
今年も当館へお泊まりいただき、本当にありがとうございます。

客

ま、今年は旦那がいねえのが寂しいがな。

客

サツキちゃん、旅館の経営は大変だと思うが、なんとか、この旅館を守っていってくれよ。
頼んだぞ。

サツキ

はいっ・・・!



サツキの部屋

サツキ

お父さんとお母さんが亡くなってから、もう半年か・・・。
私、ちゃんと女将を務められているかな・・・。

サツキ

あ、いけない、今日のホームページからの予約を確認していなかったわ。

みやび屋のサイト

サツキ

えーと・・・。
今日のホームページからの予約は・・・。

1件か・・・。
はぁぁぁ・・・。

サツキ

・・・。

あ、そうだ!
今夜はたしかムツミが帰ってくるんだったわ。

ガラララッ!

ムツミ(シルエット)

ただいま帰りましたよ~っと!

サツキ

この声は・・・。

ムツミ

アネキ~、どこにいるんだい?

サツキ

ムツミ!

ムツミ

アネキ~!

颯爽と帰ってきた睦美(ムツミ)

サツキ

もうっ、帰ってくる時間くらい教えてくれれば、駅まで迎えに行ったのに。

ムツミ

へへへ、重い荷物は前もって送ってるし、オレなんかのために大切な送迎車を使っちゃったら、お客さんが困るだろ?

サツキ

お客さんっていっても、今日は2組のお客さましか宿泊されていないの。

ムツミ

2組・・・。

サツキ

さあさ、早く上がって、荷物を部屋に置いてきなさい。
お茶でも入れるから。

ムツミ

ういっす!



茶

サツキ

それにしてもビックリしたわよ。
夢だったプロミュージシャンになる道をあきらめて、突然、ここへ戻ってくるって聞いたときは・・・。

ムツミ

へへへ・・・。
まあ、親父の反対を押し切って威勢よく上京したものの、オレのサウンドを理解してくれるプロデューサーに巡り会えなくてさ。
最近は都会の空気にも飽きてきたし、そろそろ帰ろうかと思ってたんだ。

サツキ

そうなのね。

ムツミ

それにしても、親父とお袋が死んでから、もう半年か・・・。
親父たちには随分心配をかけたな・・・。

サツキ

ムツミ・・・。

ムツミ

親父には結局、最後まで反対されたままだったけど、親父を説得してくれたのはアネキだった。
本来、この旅館を継ぐのは長男であるオレの役割だったのに、「私がこの旅館を継ぐから」と言ってくれた。
本当に感謝してるぜ。

サツキ

ううん、私ってさ、ほら、とくに取り柄がないから。
ムツミには音楽の才能があったわけだし。

サツキ

あっ、そうそう!
お父さんとお母さん、実はね、ムツミが上京してから、ムツミの音楽活動をこっそり追ってたのよ。
毎日ムツミのバンドのホームページを覗いちゃったりして。

ムツミ

えっ!?
そうだったのか!?

なんだよ、親父たち・・・。

ムツミ

・・・アネキ。

ここに来る前にメールしていたように、オレはここで働くぜ。

これまでオレは好き勝手させてもらったんだ。
アネキにはこれ以上苦労させるわけにはいかねえ。

サツキ

だから、私は大丈夫だって言ってるじゃない。

それよりムツミ、あなた、ミュージシャンの夢・・・本当にあきらめちゃうの?

ムツミ

ああ。
もうキレイさっぱり未練はないさ!

サツキ

・・・。

あれだけ音楽が好きだったムツミが、ミュージシャンを辞めちゃうなんて、信じられないけど・・・。

あのね、何度も言うとおり、うちの旅館のことは心配しなくても大丈夫なのよ。
最近、ようやく経営も軌道に乗ってきたところだし。

ムツミ

・・・。

・・・アネキ、今日は“2組しか宿泊していない”って言ってたよな。

今日は土曜だぜ。
土曜にこんなに宿泊客が少なくて、本当に大丈夫なのかよ?

サツキ

そ、それは・・・。

ムツミ

うちのWebサイトからの予約はどんな感じなんだ?

サツキ

え、えと・・・。
今日は1件・・・だったかな・・・。

ムツミ

い、1件・・・!?

ムツミ

・・・まあ、安心しろよ。

実はオレ「Webマーケティング」ってやつに詳しいんだぜ。
みやび屋のサイトからもっと予約が入るようにしてやるよ!

サツキ

Webマーケティング・・・?

ムツミ

ああ、うちのサイトを今よりも多くの人に見てもらうようにするってことさ。

オレさあ、バンド活動をしていた頃、バンドのサイトの担当だったんだ。
ファンを増やすために、サイトへの集客もがんばっていたんだぜ。

サツキ

そうだったのね。

ムツミ

まあ、詳しいことはオレに任せて、アネキは大船に乗った気でいてくれよな!

サツキ

・・・わかったわ。

ムツミ

さて・・・と。
じゃあ、早速、うちのサイトの状態でもチェックするかな。
そこのパソコン借りるぜ。

ムツミ

アネキ、たしか、うちの旅館は「旅休トラベル」への掲載は止めたんだったよな。

旅休トラベル

サツキ

うん・・・。
月額費用や予約手数料が年々高くなってきていたから、契約更新しなかったの・・・。

ムツミ

なるほど・・・。
じゃあ、今のところ、Webからの集客はうちの旅館のサイトからのみってわけか。

ムツミ

あ、うちのサイトには「アクセス解析」は入ってるか?

サツキ

アクセス解析?
あ、ホームページにどれくらいの人が来ているかを見る画面のこと?
え・・・と、たしか、うちのホームページを作ってくれた業者さんが設定してくれていたはずよ。

あ、これだわ。

はい、これがIDとパスワード。

ムツミ

サンキュ。

なるほど、Google Analyticsを入れてんだな。

よっしゃ、ログインしたぜ。

アクセス解析

説明しよう!

「Google Analytics(グーグルアナリティクス)」とは、Googleが提供している無料のアクセス解析サービスのことである。

このサービスを使えば、サイトにどれだけの人が訪れたか?また、その人はどういったメディアを経由して訪れたか?といったデータを確認することができる。

ムツミ

なんだこりゃ!?
1日に20人くらいしかアクセスしてねーじゃねーか!

サツキ

えっ?
それって少ないの?

ムツミ

当たり前さ・・・。
1日に20人しかアクセスがないってことは、ほとんど予約が入らない計算になるぜ・・・。

なんかの本で読んだことがあるんだけど、サイトからの成約率ってのは、大体1%前後、多くて5%くらいらしい。
だから、1日に20人ってことは、1日に1件予約が入ればいいほうだと思う・・・。

サツキ

えっ・・・!
(だから近頃、ホームページからの予約が入らなくなってたんだ・・・)

ムツミ

うーん、うちのサイト、こうやって分析してみると、問題がいっぱいありそうだな・・・。

サツキ

そ、そうなの・・・?

ムツミ

ま、いいや。

とりあえずはオレに任せてくれよな。

じゃあ、オレ、ちょっくら頭をリフレッシュさせるために、ひとっ風呂浴びてくるわ。

サツキ

えっ!?
ちょ、ちょっと、ムツミ、今はまだお客さまにお風呂をご利用いただく時間よ。

ムツミ

まあまあ。
今日は2組しか泊まっていないんだろ?

今の時間だったら、多分、誰も入ってこないさ。

つーわけで、ひとっ風呂浴びてきま~っす。

サツキ

んもう・・・。



風呂場の入り口

ムツミ

さてとっ!
ひっさびさの我が家の温泉だぜ。
やっぱ自分ちに温泉があるってのは贅沢だよな~。

ムツミ

フン♪フン♪フ~ン♪っと。

ガラガラガラ

ムツミ

ん?

んんんんん!!!?

風呂に気持ちよさそうに浸かっているヴェロニカ

ムツミ

・・・!!!!!!!

バンッ!

ムツミ

な、なななななななな、なんで、女の人が入ってるんだ!?

ムツミ

・・・!

ムツミ

もしかして、今の時間帯、この風呂、女湯になってんのか・・・。
脱衣所にほかの人の服があるかちゃんと確認すりゃよかった・・・。

ムツミ

・・・別の風呂に入りにいこう・・・。

ムツミ

しかし・・・キレイな姉ちゃんだったなあ・・・。

風呂に浸かっているヴェロニカを回想



ムツミが泊まっている部屋

ムツミ

さっきは本当にビビったぜ・・・。

さーてと、気を取り直して、うちのサイトのアクセス解析でも見るか。

ムツミ

ふーん、なるほどね。
ここからのアクセスが少ないってわけか・・・。

ムツミ

よし!

まずは検索経由の集客の改善だな。
SEO(検索エンジン最適化)を軸にコンテンツを改修していくとすっか!

説明しよう!

「SEO」とは「Search Engine Optimization(検索エンジン最適化)」の略称であり、Webサイトが検索結果でより多く露出(上位表示)するためにおこなう一連の施策を指す。

ムツミ

(実はオレ、ここに来る前に、栃木の温泉旅館のサイトをいくつかチェックしてきたんだよね。
SEOに力を入れているサイトはそれほど多くなさそうだったし、SEOさえなんとかすれば、うちのサイトはもっと人が来るようになるはずだぜ)



事務室

サツキ

お父さん、お母さん。
ムツミがね、帰ってきてくれたんだよ。
うちのホームページをなんとかしてくれるんだって。

サツキ

でもね、うちの旅館、もうダメかもしれない・・・。
ムツミには言わなかったけれど、私が女将になってから、うちの旅館のお客さまは明らかに減ってるの・・・。

やっぱり、私じゃ力不足なのかな・・・。
お父さんたちが大事にしてきた旅館なのに・・・!

涙を流すサツキ



その頃、ムツミが温泉で見た女性は、誰かと電話で話をしていた。

ヴェロニカ

ボーン、やっぱり、例の信号はこの旅館の一帯から出ているみたい。

電話をしているヴェロニカ

ボーン(シルエット)

・・・OK、ヴェロニカ。
オレもそちらへ向かう。



次の朝

朝

ムツミ

アネキ、おっはよー!

サツキ

あら、ムツミ、早いのね。

ムツミ

早いもなにも、今日からはオレもこの旅館の一員として働くんだからな。
女将の弟だからといって、初日から重役出勤っていうわけにはいかないぜ。

サツキ

ふふふ。

ムツミ

それはそうと、アネキ、オレ、うちのサイトを早速テコ入れしてみたんだ。

サツキ

テコ入れ?

ムツミ

ああ。
近いうちに、「栃木 温泉」というキーワードで検索したら、うちのサイトが上位に表示されるはずぜ。

サツキ

「栃木 温泉」で検索すると上位に表示?
そ、そんなこと可能なの?

ムツミ

へへへ~。
それが可能なのさ。

「SEO(検索エンジン最適化)」を施したからな。

サツキ

SEO?

ムツミ

ああ、検索エンジンで何かのキーワードを検索したとき、そのキーワードで自分のサイトが上位表示されるように、サイトの中の文章なんかを書き換える作業のことさ。

サツキ

へええ、文章を変えるだけでいいんだ・・・!
じゃあ、うちのホームページを、そのSEOの効果が出るようにテコ入れしてくれたってことなのね。

ムツミ

ああ。
テコ入れ後のサイトを見てみるかい?

「栃木 温泉」という言葉が至るところに散りばめられている、みやび屋のサイト

サツキ

え・・・と。

「栃木の温泉旅館みやび屋は栃木県須原にある温泉旅館でございます。創業から90年経った今も、栃木の温泉旅館の変わらぬ湯風景を守り続けております」

・・・。
なんだか、文章が不自然な感じがするんだけど・・・・。

ムツミ

大丈夫さ。
オレが読んだ本によると、SEOを成功させるためには、上位表示したいキーワードを文章の中に詰め込むことが大事らしい。
今回は「栃木 温泉」というキーワードで上位表示したいから、「栃木 温泉」というキーワードを多めに入れてみたわけさ。

ちなみに、キーワードを入れる場合は、文章に対して5%くらいの割合を意識するといいらしい。

サツキ

5%・・・!
そんな明確な数字があるのね。

ムツミ

まあ、本に書いてあったことの受け売りだけどな。
キーワードが増えたことで、文章の見栄えがちょっとくらい悪くなっても、検索エンジンからのアクセスが増えたほうがうれしいだろ?

サツキ

そ、それはそうかもしれないけれど・・・。

ボーン(シルエット)

女将はいるか。

ムツミ

!?

ボーンとヴェロニカ

ムツミ

な、なななななな、なんだこの人・・・!!?

サツキ

あ、も、もしかして・・・片桐様でしょうか?
ヴェロニカ様のお連れの方ですよね。

ボーン

ああ。

ムツミ

(このオッサンの横にいる女の人、昨日、風呂で見かけた姉ちゃんじゃねーか。
このオッサンとどういう関係なんだ・・・?)

ヴェロニカ

朝早くからごめんなさいね。

サツキ

いえいえ、大丈夫です。
ちょうどフロント業務を始めようとしていたところですから。

サツキ

それでは、片桐様のチェックインのお手続きをさせていただきますね。

え・・・と、ボーン・片桐様、ヴェロニカ様と同じお部屋で13泊ということですね。

ヴェロニカ

ええ。

ムツミ

(ヴェロニカ・・・?
外国の人なのか・・・?
たしかに顔はハーフっぽいけどな・・・)

サツキ

片桐様、こちらがお部屋の鍵でございます。
お部屋の設備に関しましては・・・。

ヴェロニカ

あ、部屋の説明は私から彼に話しておくわ。

サツキ

恐れ入ります。

サツキ

あらためまして、この度は当館にご宿泊いただき、本当にありがとうございます。
当館の女将を務める「宮本 皐月(サツキ)」と申します。

ヴェロニカ

女将、昨日、こちらの温泉に入ったけど、すごく気持ちよかったわ。

ヴェロニカはそう言いながら、ムツミに目配せをした。

ムツミ

(・・・!
げ・・・風呂を覗いたこと、バレちゃってる・・・!?
い・・・いやいやいやいや、あれは不可抗力ってやつで・・・)

サツキ

ありがとうございます!
そう言っていただけて、とってもうれしいです!

そのとき、女将の言葉を遮るかのように、ボーンが言葉を発した。

ボーン

この旅館のサイトを管理しているのは誰だ?

サツキ

え・・・あ、うちのホームページのことでしょうか?
以前は外部の会社に管理してもらっていたのですが、今はそこにいる、私の弟が更新を担当しています。

ヴェロニカ

あら、そちらの方は女将の弟さんだったのね。

サツキ

ムツミ、ご挨拶しなさい。

ムツミ

お、おう。

え、えと・・・。
みやび屋の「宮本 睦美(ムツミ)」と申します。
姉のサツキと一緒にこの旅館を切り盛りしています。

ヴェロニカ

睦美に皐月・・・。
和風月名を表しているのかしら。
四季を感じる素敵な名前ね。

サツキ

ありがとうございます・・・!
実はうちの父と母は、自分たちの子供の名前には、この旅館「みやび屋」の名にちなんだ雅(みやび)な名前を付けようと決めていたみたいで。

ムツミ

へええ~。
そうだったのか!

サツキ

ちょっと、ムツミ・・・。
あなた知らなかったの?

ヴェロニカ

ふふふ。
そうだったのね。

ヴェロニカ

それにしても、あなたたち、経営者にしてはとても若いわよね。
先代の旦那さんや女将さんは、今はどちらにいらっしゃるの?

サツキ

あ、先代は・・・私たちの父と母は・・・。
半年前に事故で亡くなったんです・・・。

ヴェロニカ

えっ・・・!?

ボーン

・・・。

サツキ

なので、今は私たちがこの旅館を引き継いでいます。

ヴェロニカ

そうだったのね・・・。
ごめんなさいね、変なことを聞いてしまって。

サツキ

いえいえ!
大丈夫です。
むしろ、こんな若いふたりなので、頼りないとお感じになるのは当然です・・・。

もし、当館のご宿泊中に何かお気付きの点などございましたら、何なりとお申し付けください。

ボーン

・・・では、早速言わせてもらおう。

この旅館のサイトは危ういぞ。

サツキ

えっ・・・!?
サ、サイト・・・ですか・・・?

ムツミ

ちょ、ちょっと、あんた!
な、なんだよ、いきなり・・・!

サツキ

ムツミ!
この方はお客さまよ。

ヴェロニカ

実はね、さっき、ボーンと一緒にこの旅館のサイトを見ていたの。
そのときに感じたことなんだけど、この旅館のサイトの文章、すごく読みづらかったわ。
サイトのいたるところに「栃木 温泉」という言葉が不自然に詰め込まれていたけれど、あれには何か理由があるの?

ムツミ

あ、あれは・・・。
SEOを意識してて・・・。

ボーン

SEO。
お前はこの旅館のサイトを「栃木 温泉」というキーワードで上位表示させたいのか?

ムツミ

あ、ああ。
そのとおりさ。
(なんだ、このオッサン、SEOに詳しいのか?)

ボーン

このサイトは、そのキーワードでは上位表示できん。

ムツミ

・・・!?

サツキ

えっ・・・!?

ムツミ

な、なぜだよ!?
なぜ、そんなことが言えるんだよ!?

ていうか、あんた、そもそも何者なんだ・・・?

サツキ

こ、こらっ!
ムツミ・・・!

ヴェロニカ

ふふふ。

彼の名は「ボーン・片桐」
Webマーケッターよ。

サツキ ムツミ

Webマーケッター・・・!?

ヴェロニカ

・・・ねえ、ボーン。
この旅館、料理も美味しいし、温泉も素敵なのよ。
これからしばらくお世話になることだし、少しだけサイト改善のアドバイスをしてあげてくれない?

ボーン

・・・。

ムツミ

い、いや、アドバイスって言われても・・・。
とくに必要ねーし・・・。

ヴェロニカ

坊や、ボーンの正規のコンサルティング料は1時間5万ドルなのよ。
私が言うのもなんだけど、もし、ボーンがアドバイスをくれるのなら、聞いてみるだけでも損はないわよ。

ムツミ

ご、5万ドル・・・?
(はあぁぁぁぁ!?
日本円で、ご、500万円かよ!!
怪しいオッサンだな・・・)

ボーン

今日から世話になる宿だ。
いいだろう。
チップ代わりに、なぜ、この旅館のサイトが上位表示できないのかを教えてやろう。

ムツミ

・・・。

ボーン

・・・デスクはあるか?

ボーンがサツキに尋ねた。

サツキ

あっ・・・え、えっと・・・。

ヴェロニカ

ボーンのノートPCを開くために、デスクかテーブルをお借りできるかしら?

サツキ

ノートPC・・・?

は、はい!
事務室のデスクでよろしければ・・・。

ボーン

問題ない。

サツキはボーンとヴェロニカを事務室へ案内するため、歩き始めた。

サツキ

あ、ムツミ!
片桐様のお荷物をお持ちして!

ムツミ

あ、ああ。

オッサン・・・じゃなかった、片桐様。
このアタッシュケース、お運びしますよ。

ムツミ

!!!???

ムツミ

(な、なんだ、このケース・・・!?
むちゃくちゃ重てえ・・・!
一体何が入ってるんだ・・・!?)

ケース

ヴェロニカ

大丈夫?
重いでしょ、そのケース。
運べるかしら?

ムツミ

ぐ・・・ぐぎぎぎぎぎ、だ、大丈夫ですよ・・・!

ヴェロニカ

くれぐれも足の上には落とさないようにね。
そのケース、50kg近くあるから。

ムツミ

ご・・・50kg!!?
(このケースの中には何が入ってんだ・・・?)

ボーン

運ぶのが大変なら、オレが自分で持つが。

ムツミ

い、いやいや、なんのこれしき・・・!
ぐ・・・ぐぎぎぎぎぎ・・・。

サツキはボーンとヴェロニカを旅館奥にある事務室へ案内した。
ボーンたちが入室した後、ムツミもボーンのアタッシュケースを持って入ってきた。

ヴェロニカ

ここが事務室ね。

事務室

サツキ

散らかっていてすみません・・・!
普段お客さまをお通しすることのない部屋なので、お恥ずかしい限りです。

あ、よろしければ、こちらのデスクをお使いください。

ボーン

・・・わかった。

ムツミ

オ・・・オッサン・・・じゃなかった、片桐様、ア、アタッシュケース、こ、ここに置きますよ・・・!

ドンッ

ムツミ

はあっ、はあっ・・・。
(ほんと、何が入ってるんだよ、このケース・・・)

ボーン

・・・始めるぞ。

ボーンはそう言うと、アタッシュケースをデスクの上に置き、そのケースを開いた。

ズシンッ

中から現れたのは、真っ黒なノートPCだった。

ノートPCを立ち上げるボーン

サツキ

(えっ・・・!?
あのケースの中にはノートPCしか入っていない・・・!?)

ムツミ

!?
(てことは、あのケースがめちゃくちゃ重いってことなのか?
で、でも、今、ノートPCを置いたときにズシンって音がしたぞ・・・)

ヴェロニカ

ふたりとも、ボーンのノートPCが気になる?

サツキ

え、えっと・・・。

ヴェロニカ

ボーンのノートPCはね。
39.9kgあるの。

サツキ ムツミ

さ・・・39.9kg!!?

ムツミ

そ・・・そんなノートPC、アキバでも見たことねえ・・・!
ど、どこに売ってんだよ・・・!?

ヴェロニカ

ふふふ。
ボーンのノートPCは特注なの。
あるメーカーが、彼だけのために作っているのよ。

サツキ

特注のノートパソコン・・・!

ヴェロニカ

突飛な質問をするけれど、もし、あなたたちがノートPCを使っているとして、そのノートPCのセキュリティを守るために考えられる“最も安全な対策”って何かわかる?

サツキ

セキュリティを守るための対策・・・?

ヴェロニカ

そう。

ムツミ

ウイルス対策ソフトを入れる・・・ってのは普通の回答か・・・。

ヴェロニカ

そうね。
ウイルス対策ソフトを入れるだけでは安全とは言えないわね。
ノートPCが盗まれるケースもあるでしょ?

ムツミ

たしかに、ノートPCが盗まれたらどうしようもねーな・・・。

・・・って、まさか・・・!?

ヴェロニカ

そう、最強のセキュリティ対策とは、ノートPCを“物理的に重くすること”よ。

サツキ ムツミ

!!!!!

ヴェロニカ

彼のノートPCの表面は鉛でコーティングされている。
でも、それはカモフラージュ。
あのノートPCの筐体は“金”でできているわ。

ボーン

重金属である金の密度は19.32。
そこから算出した重量は39.9kgだ。

ムツミ

!!!

サツキ

40kgのノートパソコン・・・。
私、生まれて初めて見ました・・・。

ボーン

・・・40kgではない。
「39.9kg」だ。

ムツミ

(なんで0.1kgの差にこだわってんだ・・・?)

やがて、OSの起動音とともに、ボーンのノートPCの画面に白い光がともった。

ボーン

お前はおそらく、SEOを成功させるにはキーワードを詰め込むことが重要だと考えているのだろう。

ムツミ

あ、ああ・・・。
キーワードを詰め込む際は、文章に対して5%くらい詰め込むといいって聞いたぜ。

ボーン

そんな化石のような知識は忘れろ。

ムツミ

か、化石・・・!?

ボーン

今から見せる画面を脳に焼き付けろ。
その画面には、なぜ、この旅館のサイトが「栃木 温泉」で上位表示できないかの理由が隠されている。

ムツミ

えっ・・・!?

ボーン

はああああああああ・・・!!!

ヴェロニカ

みんな!
爆風に備えてっ!!

ムツミ

ば、爆風・・・!?

インテントサーチ!!

バシィッ!!!

ボーンがエンターキーを叩いた瞬間、周囲に激しい風が巻き起こった。

サツキ

きゃあっ!!

ムツミ

くっ・・・!
な、なんだ、この風は・・・!

ヴェロニカ

心配しないで。
彼のキータッチによる風圧だから。

ムツミ

ふ、風圧・・・!

ボーン

この画面を見てみろ。

「栃木 温泉」で検索した検索結果画面

サツキ

こ、これは・・・!?

ムツミ

ただの検索結果じゃねーか?
この画面がどうしたっていうんだ?

ボーン

検索結果をよく見てみろ。

ムツミ

・・・!?

検索結果。 1位は「旅休トラベル」の栃木県の温泉一覧ページ

ムツミ

「旅休トラベル」や「温泉マニア.com」、「ららん.net」・・・。

ボーン

・・・何か気付くことはないか?

サツキ

!!
これらのページ、栃木にある旅館をまとめて紹介しているページばかりだわ・・・!

ムツミ

えっ・・・!?
ほ・・・ほんとだ・・・。

ムツミ

なんでだよ!?
なんで、こんな検索結果になってんだ!?

ははあ・・・。
あんたのブラウザ、パーソナライズされた検索結果が返ってんだな?
「シークレットモード」にして、もう一回検索してみてくれよ。

説明しよう!

「シークレットモード」とは、検索した際に“パーソナライズされた検索結果”を表示しないためのモードである。

パーソナライズされた検索結果とは、たとえば、Googleのアカウントにログインしている際、個人の行動履歴などに応じて調整された検索結果のことである。

このパーソナライズによっては、検索結果の情報がユーザーごとに変わってしまう。

もし、パーソナライズされた検索結果を表示させたくない場合には、Chromeなどのブラウザに用意されている「プライベートブラウジング(シークレットモード)」を使うとよい。

ヴェロニカ

よく見て。
ボーンのブラウザはシークレットモードになってるわ。

ムツミ

えっ・・・!?

ムツミ

じゃ、じゃあ、なんでだよ・・・!
なんでこんな検索結果になってんだよ!?

ボーン

「検索意図」の影響だ。

ムツミ

検索・・・!?

サツキ

意図・・・?

ボーン

・・・ヴェロニカ、説明してやってくれ。

ヴェロニカ

OK、ボーン。

■検索意図と検索結果の関係について

今の検索エンジンはね、検索エンジンを使う人たちが、どういう「意図」をもって検索しているかという「検索意図」を推測して検索結果を返しているの。

たとえば、「栃木 温泉」というキーワードで検索する人たちの多くは、栃木にある特定の温泉の情報を探そうとしているわけではなく、“栃木にはどんな温泉や旅館があるのか?”という情報を知りたがっているケースが多い。

だから、「栃木 温泉」というキーワードの検索結果は、栃木にある温泉や旅館の情報が“網羅的にまとめられている”ページが上位表示されやすいの。

ムツミ

な・・・なるほど・・・。

ボーン

ちなみに、今、ヴェロニカは“検索エンジン”と言ったが、オレたちが言う検索エンジンとはGoogleのことだと考えろ。
日本の検索エンジンはYahoo!とGoogleがシェアを分かち合っているが、今、Yahoo!はGoogleの検索エンジンの仕組みを採用している。
つまり、日本で“検索エンジン”という言葉を思い浮かべる際は、Googleのことを思い浮かべればいい。

サツキ

Googleってすごいんですね・・・。

ムツミ

あ、あのさあ。
さっき、あんたたちは、“検索結果はユーザーの検索意図に合わせたものになっている”って言ったけど、それってなんか根拠あんのか?
あんたたちの推測でしかないんじゃねーのか?

ボーン

どうやら、お前たちは「Googleが掲げる10の事実」というページを見たことがないようだな。

サツキ

Googleが掲げる・・・。

ムツミ

10の事実・・・!?

ボーン

ヴェロニカ、ページを見せてやれ。

ヴェロニカ

OK、ボーン。

ふたりとも、このページを見てみて。

ムツミ

これは・・・!

サツキ

Googleの会社情報のページ・・・!?

Googleが掲げる10の事実

ボーン

このページのひとつ目の文章を読んでみろ。

ムツミ

え・・と。
“ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる”

・・・!?

1、ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。

Google は、当初からユーザーの利便性を第一に考えています。
新しいWebブラウザを開発するときも、トップページの外観に手を加えるときも、Google内部の目標や収益ではなく、ユーザーを最も重視してきました。
Google のトップページはインターフェースが明快で、ページは瞬時に読み込まれます。
金銭と引き換えに検索結果の順位を操作することは一切ありません。
広告は、広告であることを明記したうえで、関連性の高い情報を邪魔にならない形で提示します。
新しいツールやアプリケーションを開発するときも、もっと違う作りならよかったのに、という思いをユーザーに抱かせない、完成度の高いデザインを目指しています。

ボーン

この文章のとおりだ。
Googleは、ユーザーにとってもっとも利便性の高い検索結果を返そうとしている。

ムツミ

ちょ、ちょっと待てよ!
たしかに、この文章を読むかぎり、あんたの言ってることはわかる。

でもさ、実際のところ、Googleがこの文章のとおりに設計されてるなんてわからねーじゃねえか。

ボーン

いや、わかるさ。

なぜなら、Googleも“一企業”だからだ。

サツキ ムツミ

えっ・・・!?

ボーン

Googleという検索エンジンを提供し続けるには、当然のことながら運用費がかかる。
そして、その運用費はGoogleという企業の売り上げでまかなわれている。

では、その売り上げはどこから上がっているのか?

ムツミ

・・・?

ボーン

「広告」だ。
たとえば、検索結果に表示されている広告。
あの広告がクリックされることにより、Googleは広告収益、すなわち売り上げを得ているのだ。

ムツミ

“検索連動型広告”ってやつか・・・。

ボーン

では、その広告収益を増やすためにはどうすればいい?

サツキ

あっ!
わ、わかりました!!

ムツミ

アネキ・・・?

サツキ

広告がたくさん表示されればいいんです!
つまり・・・Googleを使う人がたくさん増えればいいんです!

ボーン

そうだ。

ムツミ

・・・!
そ、そうか・・・!
Googleを使う人を増やすためには、Googleがほかの検索エンジンよりも使いやすくなればいい。
だから、Googleはユーザーの利便性を第一に考えているんだ・・・!

ヴェロニカ

ふふふ。
話がつながったようね。

ボーン

つまり、SEOを成功させたいのなら、検索エンジンを使うユーザーの「意図」を満足させるコンテンツが必要だ。

サツキ ムツミ

“検索エンジンを使うユーザーの「意図」を満足させるコンテンツ”・・・!!

ムツミ

つ、つまり、うちのサイトが「栃木 温泉」で上位表示されるためには、「栃木 温泉」で検索するユーザーが満足するコンテンツが必要ってことか・・・。

サツキ

それってどんなコンテンツなのかしら・・・。

サツキ ムツミ

うーん・・・。

ボーン

上位表示するコンテンツのヒントは、すべて“検索結果”に隠されている。

サツキ

検索結果に・・・。

ムツミ

隠されている・・・!?

ボーン

・・・今日から世話になる宿だ。
特別にヒントを教えてやろう。

ヴェロニカ

(ボーン、もしかして、ここであの技を・・・!?)

ヴェロニカ

・・・!
ふたりとも、ボーンから離れたほうがいいわよ!

サツキ ムツミ

へ!?

ボーン

はあああああああああ・・・!!!

マインドマッピング!

高速で検索エンジンの検索結果をマインドマップに書き込むボーン。風圧を踏ん張ろうとする、サツキとムツミ、ヴェロニカ。

ムツミ

くっ・・・!!
またしても風圧が・・・!!

サツキ

か、片桐様は今、何をしているの・・・!?

ヴェロニカ

ボーンは今、ブラウザに表示した検索結果を高速で切り替えながら、その検索結果に表示されたコンテンツ情報をマインドマップにまとめているの・・・!

ムツミ

マインドマップ・・・!?

ヴェロニカ

情報や思考を一枚の地図(マップ)のようにまとめたものよ・・・!

ボーン

はあああああああああああ!!!

サツキ

ま、まぶしい・・・!!

ムツミ

この光は・・・!!?

ヴェロニカ

ボーンのタイピングスピードがあまりにも早すぎて、PCのグラフィックボードの描画スピードが追いついていないのよ・・・!

ムツミ

な、なんであんなにタイピングが早いんだ・・・!?

ヴェロニカ

Webの仕事は基本的には座り仕事。
彼は、日々なまっていく身体を鍛えるために、光速のタイピングによって腕力をトレーニングする術を身につけたの。
彼が39.9kgのノートPCを自在に操れるのは、日々のタイピングの賜(たまもの)なのよ!

ヴェロニカ

ふたりとも、目を瞑って!!
光で目がやられるわよ!!

ムツミ

くっ!!!

サツキ

・・・!!!

ボーン

・・・マインドマッピング、コンプリート。

ムツミ

・・・お・・・終わったのか・・・?

サツキ

(さ、さっきの風圧、うちの旅館、大丈夫かな・・・)

ボーン

女将。

サツキ

は、はい・・・!!

ボーン

このUSBメモリの中に、今オレが作ったマインドマップのPDFを保存してある。
プリントアウトしてくれ。

サツキ

わ、わかりました!



サツキ

片桐さん、印刷しました!

ボーン

よし、ふたりともそのマインドマップに目を通せ。

ムツミ

こ、これは・・・。

ボーン

「栃木 温泉」で上位表示するためのコンテンツのヒントをまとめてある。

「栃木 温泉」で上位表示するためのコンテンツプランニング

このマインドマップのPDFがダウンロードできるぞ!

ムツミ

えーと、なになに・・・。
“栃木県内の温泉を探しているユーザーに対して、栃木にある温泉や旅館の情報を、プロの視点でたくさん紹介したコンテンツ”。

ムツミ

・・・。
な、なんで、そんなコンテンツで上位表示できるってわかるんだ?

ボーン

検索結果で実際に上位表示されているコンテンツを分析した結果だ。

ムツミ

検索結果で上位表示されているコンテンツ・・・?

ボーン

今のGoogleは検索エンジンを使うユーザーの意図を満足させるコンテンツを上位表示させる傾向にある。
であれば、実際に上位表示されているコンテンツがどんなものかを分析すればいいだけだ。

ムツミ

!!!
そ、そうか・・・!!!

サツキ

(た、たしかに、このマインドマップには、検索結果で上位表示されているコンテンツの情報がまとめられているわ・・・!)

ムツミ

・・・よし!
わかってきたぜ・・・!

特定のキーワードで上位表示させるためには、そのキーワードで上位表示している他社のコンテンツの真似をすればいいってことだな。

ヴェロニカ

あら。
“参考”にするのはいいけれど、“真似”をするのはダメよ。
万が一、著作権違反なんかしちゃったら、モラルがない旅館だと思われてしまうわ。

ムツミ

む、むむむ・・・。

わ、わかってるさ!
あくまでも“参考”にするだけさ。

ボーン

“参考”にすること自体は問題ではないが、誰が見ても他社と似たようなコンテンツを作ることだけは気を付けろ。
上位表示が厳しくなるケースがあるぞ。

ムツミ

えっ・・・?

ボーン

お前がひとりのユーザーとして検索エンジンを使うときのことを考えてみろ。
同じようなコンテンツばかりが上位表示されていたらどう思う?
利便性がよいとはけっして思わないだろう。

ムツミ

た・・・たしかに・・・。

ボーン

よって、上位のコンテンツを参考にしつつも、他社のコンテンツにはない“オリジナリティ”を意識するんだ。

サツキ ムツミ

オリジナリティ・・・!?

ムツミ

・・・おもしろい文章とか、ユニークな画像とかってことか・・・。

ボーン

・・・それがお前の考えるオリジナリティか?
想像力のないやつだな。

ムツミ

(ム、ムカッ)

ムツミ

な、なんだよ!!
オリジナリティが重要だと言ったのは、あんたじゃねーか!

ボーン

オリジナリティと聞いて、その程度の想像力しかないということは、お前はまだSEOの本質を理解していないようだな。

ムツミ

SEOの本質・・・?

ボーン

検索エンジンを使って何かを検索するユーザーの多くは、おもしろい文章を求めているわけでも、感動する文章を求めているわけでもない。

“情報”を求めているんだ。

サツキ

情報・・・!

ボーン

自分だったら、どんな情報が欲しいかを掘りさげて考えてみることだな。

ムツミ

“どんな情報が欲しいか”・・・。



ヴェロニカ

じゃあ、そろそろ私たちは部屋に戻るわね。

サツキ

あっ、はい!

あ、ありがとうございます・・・!
こんなに長い時間、いろいろ教えていただいて・・・。

ヴェロニカ

ううん、いいのよ。
私が言い出したことだから。

ヴェロニカ

じゃあ、ボーン、部屋へ行きましょう。

ボーン

ああ。

ムツミ

・・・。

ボーン

坊主。
もうひとつヒントをやろう。
コンテンツを考える際は、さっきのマインドマップの下部に書かれている“3つの要素”も意識してみろ。

重視すべき3つの要素として「専門性」「網羅性」「信頼性」が挙げられている

ムツミ

“3つの要素”・・・!?

ボーン

そうだ。
“3つの要素”を満たしたコンテンツであれば、この旅館のドメインなら、2週間くらいで上位表示されるかもしれんぞ。

ムツミ

に、2週間!?
そんなに早く上位表示されるのか!?

ボーン

・・・ヴェロニカ、行くぞ。

ヴェロニカ

OK、ボーン。

ヴェロニカ

坊や、またね。

ムツミ

・・・!

部屋を出て行くボーンとヴェロニカ それを悔しそうに見ているムツミと、少しオロオロしているサツキ



ムツミ

ぼ、坊主に坊や、って・・・。
子供扱いしやがって・・・。

サツキ

ちょっと!ムツミ!
片桐様たちはお客さまなのよ。
口を慎みなさい。

ムツミ

へいへい。

ムツミ

マインドマップに書かれた“3つの要素”・・・。
これか・・・。

えーと・・・。
「専門性」「網羅性」「信頼性」・・・?

ムツミ

これらを満たしたコンテンツ・・・。
ちょっと考えてみっか・・・。



そして2週間後

朝

サツキ

ムツミ、おはよう。

ムツミ

・・・。

サツキ

どうしたの?
ムツミ?

ムツミ

ア、アネキ、この検索結果を見てみろよ・・・。

サツキ

えっ?

あっ、ああっ・・・!!

10位にランクイン!

サツキ

これって、ムツミが作ったコンテンツよね・・・?
すごいじゃない!!
10位に表示されてるわ!!

ムツミ

あ、ああ・・・。

サツキ

ムツミ、どうやってこのコンテンツを作ったの?

ムツミ

・・・カンタンさ。
あのオッサンの言うとおり、「専門性」「網羅性」「信頼性」を満たしたコンテンツを作ったのさ。

サツキ

「専門性」「網羅性」「信頼性」・・・?

ムツミ

あのオッサンはこう言っていた。
“栃木県内の温泉を探しているユーザーに対して、栃木にある温泉や旅館の情報を、プロの視点でたくさん紹介したコンテンツを作れ”、と。

あのコンテンツこそが、まさに「専門性」「網羅性」「信頼性」を満たしたコンテンツだったのさ。

サツキ

えっ・・・?
どういうこと?

ムツミ

シンプルに説明するぜ。

まず、「栃木 温泉」というキーワードで検索する人は、とにかく、栃木県内にどんな温泉や旅館があるかを知りたい。
だから、栃木県内の温泉や旅館に関する情報がたくさん掲載されたコンテンツを求めてる。

ただし、彼らは間違った情報は知りたくない。
だから、ある程度、“信用できる人”が作ったコンテンツを見たいと考える。

じゃあ、“信用できる人”とは誰なのか?
信用できる人とは、たとえば、オレたちのような旅館のプロや、全国の温泉に詳しい温泉愛好家だろう。

つまり、今回のコンテンツが「みやび屋」というサイトの中で公開されてるってことは、コンテンツが信頼されるひとつの要因になるんだ。
(ま、オレはほかの旅館の情報についてはまだあんまり詳しくないんだけど・・・)

サツキ

なるほどね・・・!

ムツミ

そして、もうひとつ考えたことがあるんだ。

サツキ

もうひとつ・・・?

ムツミ

それはな、検索エンジンを使う人の利便性を考えたとき、“そもそも、みんな本当に検索したいのか?”ってことさ。

サツキ

“そもそも、みんな本当に検索したいのか?”・・・!?

ムツミ

極論かもしんねーけど、多分みんな、本当は検索なんてしたいわけじゃないんだ。
自分が知りたい情報を手に入れるための手段として、仕方なしに検索エンジンを使ってるだけじゃねーのかなって。

サツキ

仕方なしに検索エンジンを使う・・・!?

ムツミ

ああ、そうさ。
言い方は悪いかもしれねーけどな。

だってさ、栃木の温泉に関する情報なんて、手元にガイドブックがあれば、まずはそっちを見るだろ?
おそらく、検索エンジンを使って情報を探す人は、手元に情報がないから、仕方なしに検索エンジンを使ってるんじゃないか、って。

サツキ

なるほど・・・。
(実際のところ、今の若い人たちは本を読まずに検索エンジンで調べちゃいそうだけど、ムツミの意見は一理あるわ)

ムツミ

そう考えると、作るべきコンテンツが見えてきたのさ。

それは、検索エンジンで情報を探す人の“手間を省いてあげられるコンテンツ”だ。

サツキ

検索エンジンで情報を探す人の“手間を省いてあげられるコンテンツ”・・・!

サツキ

ムツミ、すごいわ・・・!
たしかに、あなたの言うことは理にかなってる・・・!


ムツミ

へっへ~。
あのオッサンたちに坊主や坊やなんて言われてバカにされたからな。
オレがただのガキじゃないってことを見せつけてやったまでよ。

サツキ

ふふふ。

サツキ

・・・ただ・・・。

ムツミ

“ただ”?

サツキ

今回のコンテンツ、たしかに「栃木 温泉」で検索する人にとっては便利だと思うけれど、このコンテンツ経由でうちへお客さんが来てくださるのかしら・・・?

ムツミ

え・・・!?



タオパイのビル

ヤンタオ(シルエット)

・・・なんだ、このコンテンツは?

みやび屋・・・だと・・・!?

みやび屋のサイトに追加されたコンテンツ

ヤンタオ(シルエット)

おい、エンドウ、これはどういうことアルか?

遠藤

・・・!

こ、これは・・・!?

お、おい、井上、どうなっているんだ!?
我らのメディアはSEOに強いんじゃなかったのか!?

井上

しょ、少々お待ちください!

む、むむむ。
これは一体・・・。

ヤンタオ

・・・ワタシはお前たちに検索結果からみやび屋を締め出せと言っておいたはずアル。

遠藤

も、申し訳ございません!!
至急原因を調査いたします・・・!!

こ、こら、井上!

井上

は、ははーっ!!

ヤンタオ

・・・お前たちの会社に、ワタシが何のために発注しているか忘れたわけではないアルな?

遠藤

は、はい!!
も、もちろんでございます・・・!

ヤンタオ

みやび屋のコンテンツが上位表示された理由を早急に調べたのち、ワタシに報告するアル。

遠藤 井上

はい!!
承知いたしました!!

ヤンタオ

・・・サツキ。
どうしても、ワタシに反抗するつもりアルか・・・。

ヤンタオ

フフフ・・・。
おもしろいアルね・・・。

不気味に微笑むヤン・タオと、その後ろで立っている遠藤と井上



夕暮れの空

ヴェロニカ

ボーン、ダメだわ。
この一帯から信号が発信されているはずなのに、まだ“アレ”がどこにあるか、まったくわからないわ・・・。

ボーン

・・・そうか。

ヴェロニカ

ただ、17日前に、都内からこの旅館の付近に“アレ”が動いたことは確かなの。
でも、“アレ”はわずか100gの小さな物体。
見つけるのには苦労しそうね。

ボーン

・・・そうだな。

ボーン

(まさか、オレのマシンにあんなものが隠されていたとはな・・・)

爆発を回想するボーン

ボーン

ヴェロニカ、どうやら“チップ”の捜索は長引きそうだな。
宿泊を延長しておいてくれ。

ヴェロニカ

OK、ボーン。

佇むボーンとヴェロニカ

次回予告

須原の温泉旅館「みやび屋」に現れた、謎のWebマーケッター「ボーン・片桐」と「ヴェロニカ」。

彼らはなぜ、みやび屋を訪れたのか?
そして、彼らが探す“チップ”とは何なのか?

今、みやび屋を巡る壮大な物語が、静かに、そして残酷に幕を開ける。

次回、沈黙のWebライティング第2話。
「解き放たれたUSP」

今夜も俺のタイピングが加速するッ・・・!!