まさか・・・。
こんな極端な結果になるなんて・・・。
松尾はPCの画面に映し出されたアンケートの結果を見て、思わず言葉をこぼした。
達川さん、アンケートの内容は決まったかな?
はい、この内容で進めようと思っています。
・・・この問いは・・・?
ウェブライダーというチームにおいて、代表の「松尾茂起」と他のメンバーとの存在感の【対比】を表すとすれば、どれくらいでしょう?
この問いは、ウェブライダーの代表である松尾さんが、ウェブライダーの一員としてどのくらい目立っているのか、その存在感、すなわち「プレゼンス」を測るためのものです。
「プレゼンス」とは英語の「presence」のことであり、ある環境における「存在感」を示す言葉である。
「どれくらい認知、記憶されているか?」という質量を表現した言葉でもあり、ビジネスの現場では「プレゼンスが高い」「プレゼンスを示す」といったフレーズで用いられる。
僕のプレゼンス・・・。
はい。
私がウェブライダーに入社して気付いたことがあります。
それは、我が社には優秀なメンバーがたくさんいるにもかかわらず、松尾さん以外のメンバーの存在があまり知られていないのでは?ということです。
中小企業において、その企業の代表が目立つのはよくあることです。
しかし、受託事業や自社サービスなど多事業を展開し始めているウェブライダーにおいては、特定の個人の露出だけでは、それら事業の価値を十分に伝えきれなくなっている、と。
今まで以上にチームとしての露出が必要になってきている・・・そう考えているんです。
チームとしての露出が必要、その考えには僕も同感だ。
ただ、達川さんが思うほど、うちの会社における僕のプレゼンスは高くないかもしれないよ。
数年前に比べると、何人かのメンバーは表に出始めてくれているし。
広報の赤木さんだったり、素敵なギフト編集部のカミムラナナさんだったり。
そして何より、僕は最近のセミナー登壇でも、ウェブライダーというチームの話をよくするようになった。
だから、「ウェブライダー=松尾」というより、ウェブライダーはひとつのチームとして、堂々としたプレゼンスをもち始めているのではと思ってる。
・・・そうですね。
その仮説を検証するためにも、ぜひアンケートをとってみましょう。
まさか・・・。
こんな極端な結果になるなんて・・・。
このアンケート結果を見るに、「松尾の印象がウェブライダーという会社の80%以上を占める」と答えた人は6割もいる・・・。
しかも、100%にチェックを入れている人は2割・・・。
最近の自分は、SNSやブログでの発信が減っているのに・・・
もしや、この状況が受託案件の受注に影響してきている・・・?
松尾はそう言葉をこぼすと、ノートPCの画面を閉じ、オフィスを後にした。
声の主は、ボーン・片桐だった。
3週間前、松尾の前に突如として現れたボーン・片桐。
彼はその日以降、松尾の心の迷いを見透かすかのように、時折姿を現すようになっていた。
ウェブライダーにおけるお前のプレゼンスが高いということは、お前の動きひとつで売上げが大きく変化するということだ。
・・・そのとおりだ。
お前は今もコンサルティングの前線に立ち、時には自分でコンテンツもつくる。
しかしお前は、15人の社員を抱える会社の経営者でもある。
プレイヤーとしての動きだけでなく、経営者としての動きも、会社の売上げを左右する。
数人のチームだった頃と同じような動きをしていては、詰むぞ。
ああ、わかってる。
だからこそ僕は、去年から情報発信のスタンスを変えつつあった。
ウェブライダーの松尾という個人に目を向けてもらうのではなく、ひとりの経営者として、ウェブライダーという「チーム」に目を向けてもらいたい。
そのために、ウェブライダーという法人が実現したい未来やウェブライダーで働くメンバーの雰囲気について話すようになったんだ。
しかし、その行動は結果として実を結んでいない。
ウェブライダーの「チーム」としてのプレゼンスはまだ高くない。
・・・。
自分たちの価値を伝えるためにサイトをリニューアルするつもりのようだが、今までのような「価値の伝え方」だと、リニューアルは成功しない。
ああ。
しばらくの沈黙が続いた。
松尾はボーンから目を逸らすことなく、真っ直ぐにボーンを見つめていた。
しかし、やがてその視線は、窓の外へと移されていった。
・・・フッ。
俺の生みの親であるお前が、どう考えるのか、楽しみに見させてもらおう。
ボーンはそう言い残すと、フッと姿を消した。
今までとは違う「価値の伝え方」・・・。
ウェブライダーの会議室には、出社組のメンバーが集まっていた。
新型コロナウイルスの脅威は続いていたが、この日もソーシャルディスタンスに最大限配慮しつつ、対面でのミーティングがおこなわれることとなった。
ただし、全員が出社するのは厳しい。
よって、数人はテレワーク組として、Zoomによるオンライン参加となった。
あらためて皆さんに、先日集めたアンケートの結果を共有します。
今日はこのアンケートの結果を見ながら、我々が提供しようとしていたソリューションと、お客さまが求めるソリューションとの間に「価値のギャップ」がないかを確認します。
話を切り出したのは達川だった。
約3ヶ月前に入社したばかりのマーケターの達川は、この「価値のギャップ」という言葉が口癖だった。
ギャップとは「差異」のこと。
自分たちにとっては価値があると思われるものでも、お客さまがその価値を感じてくれるとは限らない。
もし「価値のギャップ」がある状態でマーケティングを進めるとなれば、そこには大きなコストとリソースの負担が生まれてしまう。
そうならないよう達川は、徹底した顧客目線をもつことが大切だと常々考えていた。
今回のアンケートでは、「定量調査」と「定性調査」を同時におこないました。
「定量調査」とは、収集したデータを数値化し、統計学的に分析する調査方法のこと。
たとえば、その選択肢を選んだ人が何人いるかや、全体に対してどれくらいの割合なのかを算出する。
一方、「定性調査」とは、数値では表現できない情報を得るための調査方法のこと。
たとえば、インタビューで集めた意見を一つひとつ分析し、なぜ、この人はこう考えたのか?といったことを深掘りする。
アンケートの対象者は、未来のお客さまになってくださる可能性の高い、ウェブライダーに関心のある方々を基本としました。
松尾さんのTwitterやFacebookのフォロワー、そして、うちのセミナーに過去参加してくださった一部の方々にお答えいただきました。
アンケートフォームの作成には、「Zoho Survey」を用いて作成し、回答者への謝礼として、メール経由で200円分のAmazonギフトカードをお贈りしています。
アンケートフォームの作成ができるサービスはいくつもあるが、今回、ウェブライダーでは「Zoho Survey(ゾーホー・サーベイ)」を用いた。
アンケートの作成には、Googleスプレッドシートとカンタンに連動できるGoogleフォームや、Questant(クエスタント)などもあり、自社に合ったものを選ぶことをオススメする。
Amazonギフトカードなら、多くの方に買い物に使っていただけるし、回答者さんのメールアドレスがあればすぐに送付できるのでいいですよね。
謝礼の金額の設定は悩むけれど・・・。
エンジニアの広江が言った。
はい。
おっしゃる通りです。
今回の質問数は全16問。
選択式の回答が多いとはいえ、回答には5~10分ほどかかります。
少し申し訳ない気持ちになりながらも、謝礼はコーヒー1杯分ほどの200円でお願いしました。
ありがたいことに、皆さん、しっかりと回答してくださいました。
ウェブライダーに関心をもってくださっている方々にお願いしたのがよかったと思います。
たった1日で、120人もの方に答えていただけたのはビックリしたよ。
はい、ありがたいです。
その数こそが、ウェブライダーが大切にしてきた、多くの方とのご縁なのかもしれませんね。
必要な回答数は、求める精度によって異なりますが、今回は時間も限られていたこともあり、100人を目標としました。
詳しい説明は長くなってしまうので割愛しますが、100人の回答が集まれば、その回答結果から得られる情報の信用度は95%、許容誤差は10%ほどと考えてもらってOKです。
その誤差の範囲で判断が割れるような状況になれば、継続して回答を集め、母数を増やす必要があります。
しかし今回は、100人という目標で十分ではないかと考えました。
結果として120人もの回答が集まったから、目標は達成ですね。
今回のアンケート、私のコンサルのお客さまも答えてくださったみたいです。
伊藤が言葉を挟んだ。
伊藤はコンサルタントとして、お客さまと直接やりとりをすることが多いポジションだ。
今回のアンケートでは、伊藤の呼びかけに応えた数社のクライアントもアンケートに協力してくれていた。
本当にありがたいね・・・。
さて、アンケートというものは、回答者に「どんな問いを投げかけるか?」によって、回答の質はもちろん、傾向も変わります。
今回は、ウェブライダーの事業の価値をさまざまな観点から分析したいと考え、次のような問いと選択肢を用意しました。
そう言いながら、達川はZoomの画面共有を用いて、制作したアンケートを画面に映し出した。
このアンケートは主に次のような構成から成り立っています。
- お客さまのデモグラフィック情報
- ウェブライダーの「認知度」に関する調査
- ウェブライダーの「機能的な印象」に関する調査
- ウェブライダーの「情緒的な印象」に関する調査
- ウェブライダーが手がける「ソリューション」の価値の検証
※枠内でスクロールできます
今回のアンケートの設問
1.お客さまのデモグラフィック情報
1.メールアドレス
2.性別
- ・男性
- ・女性
- ・回答しない
3.年齢
- ・29歳以下
- ・30代
- ・40代
- ・50代
- ・60代以上
4.どこからこのアンケートに来られましたか?
- ・チャットワーク
- ・ウェブライダーのコーポレートサイト
- ・その他(具体的にご記入ください)
5.ご職業
- ・経営者、役員
- ・ディレクター、マネージャー
- ・営業
- ・企画、広報、マーケティング
- ・人事、総務、法務
- ・制作(デザイナー)
- ・制作(ライター・編集者)
- ・その他
2.ウェブライダーの「認知度」に関する調査
6.ウェブライダーの「受託事業」の中で、知っているものをすべて選択してください。
- ・Webコンテンツの制作
- ・Webサイトの制作
- ・Webサイトリニューアル
- ・LPの制作
- ・単発SEOコンサルティング
- ・顧問SEOコンサルティング
- ・SNS運用コンサルティング
- ・出張SEOセミナー
- ・ブートキャンプ
- ・記事のフィードフォワード
- ・その他(具体的にご記入ください)
7.ウェブライダーが手がける「自社事業」の中で、知っているものをすべて選択してください。
- ・ウェブライダー式SEO 超集中講座
- ・文章作成アドバイスツール「文賢(ブンケン)」
- ・SEOテンプレート「賢威(ケンイ)」
- ・バナー&ヘッダー作成ソフト「バナープラス」
- ・話し手と聞き手をつなげるサービス「クマレル」
- ・人事ったー(※公開終了)
- ・戦国BBS(※公開終了)
- ・その他(具体的にご記入ください)
8.ウェブライダーが制作した「コンテンツ」の中で、知っているものをすべて選択してください。
- ・美味しいワイン
- ・美味い居酒屋
- ・Betters
- ・CHECK-LIST
- ・素敵なギフト
- ・沈黙のWebライティング
- ・沈黙のWebマーケティング
- ・知らないと損をするサーバーの話
- ・俺の薬局
- ・ナースが教える仕事術(※公開終了)
- ・薬剤師ネット/薬剤師マキの調剤なる日常(※公開終了)
- ・CD「Eternal Writing」
- ・CD「私の心の中の関数/愛のウイルス対策」
- ・CD「恋のSEO!/マージントップで歌わせて」
- ・東京Excel物語
- ・SEOコンサルタント松尾のブログ(※公開終了)
- ・その他(具体的にご記入ください)
3.ウェブライダーの「機能的な印象」に関する調査
9.ウェブライダーという会社を一言で表す場合、最もイメージに近いものをひとつ選択してください。
- ・Webコンテンツ制作の会社
- ・Webサイト制作の会社
- ・Webライティングの会社
- ・Webマーケティングの会社
- ・Webブランディングの会社
- ・SEOコンサルティングの会社
- ・SEOの技術の会社
- ・さまざまな自社事業を手がけている会社
- ・松尾茂起の会社
- ・近いイメージはない
10.ウェブライダーが得意だと思われるものを、以下からすべて選択してください【その1】
- ・SEOに強いコンテンツの作成
- ・SEOの技術的なアドバイス
- ・Webサイトの新規制作
- ・Webサイトの運用・改善アドバイス
- ・ECサイトの新規制作
- ・ECサイトの運用・改善アドバイス
- ・LPの新規制作
- ・LPの改善アドバイス
- ・オウンドメディアの新規制作
- ・オウンドメディアの運用・改善アドバイス
- ・その他(具体的にご記入ください)
11.ウェブライダーが得意だと思われるものを、以下からすべて選択してください【その2】
- ・SNSの運用アドバイス
- ・企業や人のブランディング
- ・サービスや商品のブランディング
- ・良い人材を採用するためのアドバイス
- ・編集者やライターの育成
- ・本質的思考力をもったWebマーケターの育成
- ・動画制作
- ・音楽制作
- ・プレゼンテーションスキルの提供
- ・売れる商品やサービスの企画
- ・市場調査・リサーチ
- ・その他(具体的にご記入ください)
4.ウェブライダーの「情緒的な印象」に関する調査
12.ウェブライダーという会社を表す言葉として、イメージに近い言葉をすべて選択してください。
- ・信頼できる
- ・熱量が高い
- ・高品質
- ・洗練感
- ・仁義を重んじる
- ・真摯な姿勢
- ・成果を出す
- ・期待値が高い
- ・先進的
- ・個性的
- ・厳格
- ・優しい
- ・親しみやすい
- ・本質的
- ・京都っぽい
- ・礼節を重んじる
- ・言葉を大切にする
- ・チームワークがよい
- ・オリジナリティがある
- ・その他(具体的にご記入ください)
5.ウェブライダーが手がける「ソリューション」の価値の検証
13.ウェブライダーが今後、以下のようなサービスを手がける場合、興味・関心のあるサービスをすべて選んでください(既に提供済みのサービスもあります)
- ・SEOのセカンドオピニオンサービス(第三者視点で、SEOについてのチェックをおこなう)
- ・優秀な「人材採用」につながるコンテンツ制作やコンサルティング
- ・企業や商品の「ブランディング」の支援コンサルティング
- ・SNS運用のコンサルティング
- ・記事の改善点を指摘するフィードフォワード(記事の改善点をPDFやExcelのシートにまとめてご提供)
- ・各社ごとのオウンドメディアの「見本となる1記事」を制作するサービス
- ・動画セミナーなどで使える「プレゼンスキル」を教える講座
- ・プレゼン用の「スライド作成」のコツを教える講座
- ・「HowTo系動画制作」のコツを教える講座
- ・ウェブライダーへの入社後に即戦力人材となるための「ウェブライダーの社内研修」を疑似体験できる講座
- ・ウェブライダーのメンバーがWeb制作・運用にまつわる様々な質問に答える月額の有料サポートフォーラム
- ・松尾茂起が日々、どんなインプットをおこない、どんな思考をおこなっているかを垣間見られる、オンラインサロン
6.松尾とメンバーとの「プレゼンス」の比較
14.ウェブライダーというチームにおいて、代表の「松尾茂起」と他のメンバーとの存在感の【対比】を表すとすれば、どれくらいでしょう?
- ・松尾茂起が100%/他のメンバーが0%
- ・松尾茂起が90%/他のメンバーが10%
- ・松尾茂起が80%/他のメンバーが20%
- ・松尾茂起が70%/他のメンバーが30%
- ・松尾茂起が60%/他のメンバーが40%
- ・松尾茂起が50%/他のメンバーが50%
- ・松尾茂起が40%/他のメンバーが60%
- ・松尾茂起が30%/他のメンバーが70%
- ・松尾茂起が20%/他のメンバーが80%
- ・松尾茂起が10%/他のメンバーが90%
- ・松尾茂起が0%/他のメンバーが100%
7.その他の定性調査
15.ウェブライダーの競合に当たると思われる会社があれば、教えてください。
またよろしければ、その理由もお聞かせください。(任意・自由回答)
16.もし、ウェブライダーにキャッチコピーをつけるとすれば、どんなキャッチコピーが考えられますか? (任意・自由回答)
そして、今回のアンケートを企画するにあたり、次の2点を意識しました。
- 回答の精度を高める
- 回答者のモチベーションを高める
せっかくなので、この2点について、さらに詳しく解説しておきます。
今後アンケートをとる際の参考にしていただければと思います。
まずは「回答の精度の高め方」についてです。
1.回答の精度の高め方
回答の精度をどこまで高められるかが、アンケートの成否を決めます。
たとえば、次の6点を意識しておくことで、回答の精度が上がりやすくなります。
■回答の精度を高める6つのコツ
- 「何を明確にするためのアンケートなのか?」を言語化し、問いの精度を高める
- 回答者の対象を、自社に関心をもっている人たちに絞る
- 曖昧すぎる回答にならないよう、数値化して具体化できる回答は、あらかじめ数値化した内容の選択肢を用意しておく
- 選択肢に「その他」を入れ、自由回答ができるようにする
- 「ランダマイズ」の仕組みを使い、回答者が選択肢の提示順による影響を受けないようにする
- 回答者が言い残したことがないように、アンケートの最後に自由回答欄を設ける
まず、「1」の「何を明確にするためのアンケートなのかを言語化する」という点についてです。
今回、「我々が提供しようとしていたソリューションと、お客さまが求めるソリューションとの間にギャップがないかを確認するためのアンケート」と言語化しました。
その言語化のあとに各質問を考えたわけですが、目的が明確になると「問うべき問い」も明確になり、必要な情報がアンケートから集まりやすくなります。
このプロセスを端折ってしまうと、何のためにアンケートをとるのかが不明確になってしまい、集めたい情報が集まってきません。
必ず、「何の情報を集めるためのアンケートなのか?」を言語化した上で、アンケートの準備に取り掛かるようにしてください。
続いて、「3」の「数値化して具体化できる回答は、あらかじめ数値化しておく」という点も大事です。
たとえば、“強い”“多い”などのふわっとした言葉だと、人によって「どれくらい強いのか?」「どれくらい多いのか?」というように、ニュアンスに差が出てしまいます。
今回、「松尾さんとほかのメンバーとのプレゼンスの比較」に関する問いを入れ、その問いの選択肢を100%~0%という数値で表したのは、このニュアンスの違いによる誤差を防ぎたかったからです。
とはいえ、80%や70%という数値の感覚は人によって異なります。
よって、数値化すれば必ずしも具体的になるかというと、そうは言い切れないのですが、それでも、“強い”や“多い”などのフワッとした言葉よりはイメージがつかみやすいと考えました。
また、数値化しておけば、今後同じ質問をしたときに、「変化の度合い」が見やすいというメリットもあります。
たとえば、「彼氏としては最高だけど、結婚相手としてはちょっとなー」というセリフを、「彼氏としては100点だけど、結婚相手としては50点かなー」と言い代えるとわかりやすい、みたいな?
そ、そうですね。
続いて「5」、「ランダマイズの仕組みを使い、回答者が選択肢の提示順による影響を受けないようにする」ことも忘れてはいけません。
ランダマイズ・・・?
ランダムに表示するってことですか?
広報の赤木が言葉を挟んだ。
そうです。
ランダマイズとは、回答の順番をランダムにして提示するということ。
「リンゴ、バナナ、ミカン」という選択肢の順番があるのなら、その順番がアクセスするたびに「バナナ、ミカン、リンゴ」になったり、「ミカン、リンゴ、バナナ」になったりする仕組みのことです。
人は回答の選択肢が多いとき、最初や最後の選択肢を選びやすくなるといわれています。
そういった選択肢の順序によって、回答が影響を受けないようにする仕組みが、ランダマイズです。
ただし、並び順に理由がある場合は、ランダマイズを使ってはいけません。
たとえば、「年齢」の並び順などでランダマイズを使ってしまうと、選択しづらいアンケートとなってしまいます。
たしかに・・・!
年齢の選択肢が「30代、10代、60代以上、20代」というように、法則性のない並び順になっていると困惑しそうです・・・。
まさにです。
だからランダマイズを使う際は、使うべき設問かどうかを見極めるようにしましょう。
そして最後の「6」、これが何気に重要です。
「回答者が言い残したことがないように、アンケートの最後に自由回答欄を設ける」。
この自由回答欄を設けておくことで、回答者からの思わぬ意見やアイデアが集まることがあります。
回答者はアンケートを答えていく過程で、自身の意見や考えを整理できます。
そうして整理された考えの中から、ひらめきに近い意見やアイデアが生まれることがあるんです。
ただ、今回のアンケートの最後は、「もし、ウェブライダーにキャッチコピーをつけるとすれば、どんなキャッチコピーが考えられますか?」という問いで終わらせました。
全体の設問数が多かったため、この問いを自由回答欄と兼ねることとしたんです。
ちなみに、キャッチコピーはどんなものが集まっていたんですか?
そうですね。
いくつか気になったコピーを拾ってみました。
- トータルWebサービスプランナー
- 哲学するマーケティング会社
- 困ったら相談できるアニキ
- 共創力を育てる会社
・・・などなど。
おもしろい!
集まったコピーを見るだけでも、うちが望まれているソリューションが見えてきますね。
はい、そうなんです。
自由回答から得られる気付きはとても貴重です。
では続けて、アンケートを企画する上で重要な2点目、「回答者のモチベーションの高め方」についても解説しておきます。
2.回答者のモチベーションの高め方
回答者のモチベーションが高ければ高いほど、より詳細な意見が集まるようになります。
そのためにも、次の3点を意識し、回答者が積極的に回答したくなるようなアンケートをつくりましょう。
■回答者のモチベーションを高める3つのコツ
- 所要時間を明記する
- 答えるのがカンタンな問いから提示する
- 回答の選択肢が多い質問は、設問を分ける
まず1点目は「所要時間を明記する」ことです。
この工夫はカンタンにできることですが、忘れずにおこなえるかどうかで、回答率が大きく変わることがあります。
所要時間を明記することで、許容できる時間であれば、「これくらいの時間だったら、答えてみようかな」というモチベーションにつながります。
たとえば、今回のアンケートに関しては、見出しに「5分程度」という表記を入れました。
大事なのは、たとえ1分で終わるアンケートだったとしても、「すぐに終わるアンケートです」とは書かずに、「所要時間は1分」と明記することです。
人はゴールや道順が具体的に見えたほうが、安心して行動できるんです。
ちなみに、所要時間が20分もかかるような大がかりなアンケートの場合は、単に時間を伝えるだけではダメです。
回答したくなるようなインセンティブを一緒に提示しないと、モチベーションは高まらないでしょう。
所要時間を伝えるだけでなく、残りの設問数を伝えることも大事ですよね。
「あと3問でゴールです!」みたいな。
まさにです。
そのためには、「全16問」のような表記も入れておいたほうがいいですね。
そして2点目は、「回答がラクな選択型の質問を前半にもってくる」ことです。
自由回答ができる質問のことを「オープンクエスチョン」、回答の選択肢が限られているものを「クローズドクエスチョン」と呼びますが、前半にはできるだけ「クローズドクエスチョン」をもってきます。
「なぜ?」「どうして?」という開かれた質問より、「どちらがいいですか?」といった閉じられた質問を前半にもってくるということですね。
私がイベントでファシリテートするときにも、この「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」の使い分けには気を付けるようにしています。
いいですね。
ファシリテートにおいて、質問力は大事ですよね。
そして3点目は、「回答の選択肢が多い質問は設問を分ける」こと。
ひとつの質問にあれもこれもと欲張って選択肢を詰め込んでしまうと、回答者は選択肢を選ぶのに苦労します。
最悪、選び疲れてアンケートから離脱してしまう可能性だってあるんです。
「選択のパラドックス」ですね。
「選択のパラドックス」とは、人は選択肢を多く見せられるほど、選択を困難に感じ、選択肢を選びきれなくなるという現象を指す。
この「選択のパラドックス」は、コロンビア大学ビジネススクールの教授「シーナ・アイエンガー(Sheena Iyengar)」教授が自身の書籍「選択の科学」で説いた言葉。
アイエンガー教授はある実験をおこなった。
それは、6種類のジャムを並べたテーブルと、24種類のジャムを並べたテーブルのふたつを用意し、それぞれのテーブルでジャムの試食と販売を始めるとどうなるか?というもの。
どちらのテーブルも、試食をした人の人数は変わらなかった。
むしろ、24種類のジャムのテーブルのほうが、試食をしていた人たちは楽しそうに見えた。
しかし、最終的にジャムを購入した人の割合を見ると、6種類のジャムを並べたテーブルでは30%の人がジャムを購入し、24種類のジャムを並べたテーブルでは3%の人しかジャムを購入しなかった。
なんと10倍もの差が生まれてしまったのだ。
この「選択のパラドックス」に関する話は、『沈黙のWebライティング』の第4話でも取り上げられている。
ぜひチェックしてもらいたい。
まさにそうですね。
アンケートひとつにおいても、快適さ=UX(ユーザー・エクスペリエンス)を大切にしなければいけません。
回答者のモチベーションが低いアンケートは、回答の品質が悪くなりがちです。
そうなれば、分析に支障が出てしまい、あとの施策にも影響が出てしまいます。
世の中にはアンケートをとるプロがいるくらいですからね。
良いアンケートをとるためのコンサルティングを提供している会社もありますし。
はい、アンケートは奥が深いです。
だからこそ、アンケート作成のノウハウをあらためて皆さんに共有させていただきました。
このようにして作成したアンケートでしたが、次のような回答が集まりました。
レポートを画像でつくってみたので、見てみてください。
※枠内でスクロールできます
この中から、主な設問と回答結果を取り上げてみます。
まず、今回のアンケートの主たる目的だった、“ウェブライダーのソリューションに対して、どれだけの人が価値を感じてくれるか?”の把握についてです。
結論からいうと、我々は、お客さまのニーズをそれなりにしっかり把握できていることがわかりました。
そう結論付けたアンケートの設問と回答結果をお見せします。
この設問は、「ウェブライダーは●●が得意だと思いますか?」という印象ベースの質問です。
なぜ印象ベースの質問にしたかというと、「Web制作を発注したいですか?」「SEOコンサルを発注したいですか?」といった質問だと、すぐに発注する必要性を感じていない人からの意見が「No」となってしまうかもしれないからです。
何かが得意だと思われているということは、今後、発注される可能性があるかもしれないということ。
よってこのような印象ベースの質問にしました。
「SEOに強いコンテンツの制作」や「SEOの技術的なアドバイス」は、まさにうちが得意としているところなので、うれしい結果ですね。
ECサイトの運用を選んだ人が少ないのは、うちがあまりECサイトの事例を発信していないからかな。
実際のところ、うちはECサイトの改善コンサルなどもしているので、ECサイトに関する情報発信もしていく必要がありますね・・・。
そうですね。
では続けて、この回答結果も見てもらえればと思います。
これは・・・?
先ほどと似た設問ではありますが、こちらは、今うちが「ソリューションとして積極的に提供はしていないけれど、実際には得意としている業務」に関する質問です。
「本質的思考力をもったWebマーケターの育成」・・・。
「サービスや商品のブランディング」・・・。
たしかに今、うちのコンサルでは、一部のコンサルのお客さまに対してブランディングの支援を始めているけれど、ブランディングをこんなにも得意と思っていただけているなんて・・・。
「自社の魅力は、自分たち以上に、お客さまのほうがわかってくれている」。
私がコンサルを通してお客さまに言っていることと同じ。
今回の結果を見て、あらためて実感しました。
そうですよね。
どんな人も企業も、自身を見つめるときは、主観的な視点になりがちです。
だからこそ、今回のように外部の客観的な意見を集めることが大事なんです。
たとえば、次の回答結果も興味深いです。
「SEOコンサルティング」よりも、「Webコンテンツ制作」のほうが回答数が多い・・・!
そうです。
うちは人的リソースの関係上、制作案件の受注数を抑え、コンサルティング案件の受注を増やすことを意識してきたと聞いています。
その流れで、自社を「Web制作会社」ではなく「Webプランニング会社」と呼んできた、とも。
アンケートの分母が少ないため、Webコンテンツ制作のイメージが強いとは断言できませんが、SEOコンサルティングと同等かそれ以上の期待をされていることはわかりました。
ここで見えてきた価値のギャップとしては、「自分たちはコンサルティングの業務を増やしたいと思っているが、実際のところ、コンサルティングよりも制作のほうが価値が高いと思っている人がまだまだ多い」ということです。
コンサルティングって言葉は、どうしてもフワッとした印象になりがち。
制作物が見える制作案件のほうが、お客さまは安心できるし、社内稟議を通しやすい。
だからこそ、うちのコンサルティングがどんな成果につながるのかを、今まで以上にしっかり伝えていく必要がありそう・・・。
そうだね。
せめて、うちのコンサルティングを一度体験さえしてもらえれば、価値は伝わりそうなんだけど・・・。
まさに仰るとおり、コンサルティングは、体験してもらうことによって価値を感じてもらえるソリューションですからね。
・・・!
そのとき、松尾が何かをひらめいたようだった。
だが、松尾はそのひらめきを口に出さず、ほかのメンバーのやりとりを黙って聞いていた。
そして、もうひとつ見てもらいたい回答結果があります。
これは・・・?
これは、うちが今後提供できそうなソリューションに対して、回答者の方々が関心を示してくれるかの調査結果です。
今回、顧客のニーズをあらためて掘り下げた結果、いろいろなソリューションが新しく見えてきました。
それらのソリューションに関しても、価値を感じてくれる人が多いことがわかります。
「各社ごとのオウンドメディアの見本となる1記事を制作するサービス」。
これ、いいかも・・・!
あっ、それ、私が提案したソリューションです。
たくさんのコンテンツをつくるのは難しくても、見本となる1記事をつくるのなら、大丈夫かなと思いまして・・・。
とてもいいアイデアと思う。
たしかにそれなら、コンサルティングと制作をセットで受けられる。
「記事の改善点を指摘するフィードフォワード」は最近始めた事業だけど、すごく好評だよね。
そうだね。
「フィードフォワード」は、もともとコンサルティングの中で提供しているサービスの一部なんだけど、いつもすごく喜んでいただけてる。
そのフィードフォワードを抜き出したサービスを始めたことで、より多くの人たちに価値を届けられるようになったと思う。
「フィードフォワード(feed forward)」とは、より前向きに改善点を伝えるフィードバック(feed back)のことである。
フィードバックとはダメ出しや批判が多くなりがちだが、フィードフォワードは、あくまでも未来に向けた改善点をポジティブに伝える。
このコロナ禍をきっかけに、自社でサイトを立ち上げた企業も多いと聞きます。
そんな企業に対して、改善点をアドバイスするサービスは喜ばれそうですね。
提供できる価値が多いということは、それだけビジネスの伸び代があるということ。
受託案件の回復に大きな希望が見えてきましたね。
チーフマネージャーの宮本が微笑みながら言った。
あとは、これらのソリューションの価値を、新しいサイトで伝えていくことが大事・・・。
今のうちのサイトは、その価値をほとんど伝えられていない・・・。
2020年10月5日以前のウェブライダーの会社サイトを見る
(※2020年11月24日時点のサイトは、10月6日に少しだけリニューアルされています)
そうだね。
だからこそのサイトリニューアルだね。
・・・。
達川さん、どうされました?
そのとき、達川が少し険しい表情をしたのを、宮本は見逃さなかった。
・・・実は、今回のサイトリニューアルを進めるにあたって、一点、気になっていることがあります。
気になっていること?
はい。
この回答結果を見ていただきたいんです。
達川はそう言うと、ある回答結果を表示した。
これは・・・?
ウェブライダーの代表である松尾さんが、ウェブライダーの印象をどれだけ担っているかという調査結果です。
えーと・・・。
“ウェブライダーというチームにおいて、代表の「松尾茂起」と他のメンバーとの存在感の【対比】を表すとすれば、どれくらいでしょう?”
・・・!
「松尾茂起が100%で他のメンバーが0%」って答えた人が20%近くも・・・。
松尾さんの印象って、こんなに強いんだ・・・。
これってつまり、この人たちにとっては、ウェブライダーには松尾さんしかいないように見えるってこと・・・?
・・・私たちの外部でのプレゼンスってそんなに小さいのかな。
いや、そんなことはないと思う。
現に、各事業のお客さまの中でのみんなのプレゼンスはとても高いはず。
・・・ただ、まだ取引を始めていない外部の方に対しては、みんなの姿が見えづらくなっているのかもしれない。
松尾が言葉を挟んだ。
そうですよね・・・。
実際のところ、ウェブライダーの顔としてSNS等で発信しているのは、松尾さんや赤木さん、そしてカミムラナナさんの3人がほとんどだから・・・。
本当は私たち社員も、もっと前に出て発信すべきなのだと思います。
ただ、ウェブライダーは言葉を大切にするポリシー。
発信には細心の注意を払いたい・・・、そう考えると、前へ出ていくのに勇気が必要で、なかなか発信できていませんでした。
会議室に少し重い空気が広がった。
・・・広江さん、伊藤さん、そしてみんな、よく聞いてほしい。
たしかに、このアンケート結果を見ると、僕の対外的なプレゼンスは高いのかもしれない。
僕は経営者であり、この会社を率いていく立場にある。
イベントに登壇することが多いし、SNSもそれなりに使っている。
だから、僕が目立ってしまうのは当然だと思っているし、これからも僕のプレゼンスは高いだろう。
多分、僕が今もプレイヤーとしてコンテンツを制作したり、コンサルティングの現場に顔を出していることも大きいのかもしれない。
ただ、僕はこのままではダメだと思っている。
ウェブライダーという会社のプレゼンスが、僕という個人に偏り過ぎている状況はとても“歪(いびつ)”なんだ。
とくに、これからサイトをリニューアルをし、ウェブライダーとしての価値をあらためて発信していく中で、今までと同じような見え方ではいけないと思ってる。
もっと、ウェブライダーという「チーム」の魅力を発信していかないといけない。
私も同感です。
私がウェブライダーに入社して気付いたことがあります。
それは、我が社には優秀なメンバーがたくさんいるにもかかわらず、松尾さん以外のメンバーの存在があまり知られていないということです。
私の杞憂かと思っていましたが、今回のアンケートでそれが明らかになりました。
一般的に、中小企業において、その企業の代表が目立つのはよくあることです。
しかし、受託事業や自社サービスなど多事業を展開し始めているウェブライダーにおいては、特定の個人の露出だけでは、それら事業の価値を十分に伝えきれなくなっている。
私も「チーム」としての露出が必要になってきていると感じます。
・・・。
赤木は、松尾が語る言葉を、広報という立場で自分事として捉えていた。
広報としてどんな動きをすれば、チームとしての価値を伝えられるだろうか?
その問いを心の中で反芻(はんすう)していた。
僕がいつも言っていることだけど、会社というものは、そこに所属するメンバー全員で創りあげるスーパーヒーローみたいなものだ。
会社のことを別名「法人」と呼ぶけれど、この「法人」という言葉は、ひとりの人格を指している。
(・・・ひとりの人格・・・)
だから、今の状況をたとえるなら、ウェブライダーというひとりの人間の、一部分だけが見えている状態なんだ。
ウェブライダーには本当はもっといろいろな魅力があるはずなのに、その魅力が伝わっていない。
それが今の状況なんだ。
経営のセオリーからいえば、選択と集中を意識することで、伝えるべき価値をシンプル化したいところですが・・・。
うちの魅力は、様々な事業を横断的に回すことで、掛け算式に生み出す独自の知見ですからね。
自身も会社を経営したことのある宮本が言った。
サイトリニューアルってカンタンに言っちゃったけど、リニューアルすべきは、サイトだけでなく、私たちの情報発信の姿勢なのかもしれないね。
・・・私も広報として、自分の情報発信のスタイルをあらためて考えてみます。
赤木さんは今、「文賢」のディレクターも務めてくれているから、広報との両立がかなり大変だよね。
赤木さんだけじゃない、みんなも各々の業務を抱えてる。
みんなで情報発信するといっても、リソースをどう配分するかが重要になりそう。
・・・皆に誤解してほしくないのは、僕は皆に「今すぐSNSを始めてほしい」というようなことを言っているわけじゃないんだ。
ただ、サイトリニューアルを進める前に、自分たちのチームの価値を、どのようにして伝えるのがベストかを考え抜きたいと思っているんだ。
Webサイトはあくまでも手段だからね。
「価値を伝える」という目的を叶える手段として、もしかすると、サイトリニューアルではない手段も見つかるかもしれない。
よし、一旦、今日のミーティングはこれで終了としよう。
ディスカッションの続きは、明後日、Zoom上で再開しよう。
僕のほうでもいいアイデアがないか考えてみるよ。
・・・なるほど。
参考になります。
松尾は、Zoom上で誰かと会話をしていた。
実は松尾は数日前から、過去のクライアントにZoom上でヒアリングをし、自社の印象を聞く「デプスインタビュー」を始めていた。
この日の相手は、松尾が以前、「沈黙シリーズ」でコラボした、レンタルサーバーブランド「CPI」を展開するKDDIウェブコミュニケーションズ(KWC)のメンバーの森下氏だった。
「デプスインタビュー」とは、定性調査のひとつで、相手の意見を深く掘り下げるインタビューを指す。
複数人をまとめてインタビューする「グループインタビュー」に比べ、一人ひとりと向き合うことができ、デリケートな話題に対しても意見をもらいやすいメリットがある。
さっきも言ったけれど、ウェブライダーの魅力は、コンテンツをつくるだけでなく、その一段階上の事業レベルでWeb施策を考えてくれることかな。
全体の施策を考えたとき、もしコンテンツが必要ないのなら、「今回はコンテンツをつくる必要がない」という判断をしっかりしてくれるイメージ。
森下はそう言葉を発した。
実は、森下と松尾は旧知の仲だった。
森下は今から10年前、ウェブライダーを創業して間もなかった松尾にセミナー登壇の誘いをくれた人物。
森下は会社に勤める一方で、個人的にいろいろなWeb関連のイベントを主宰しており、その中のひとつのイベントで松尾に声をかけたのだった。
それ以来、森下と松尾は気兼ねなく話を交わす仲となった。
ありがとうございます。
そう言っていただけると、自信がもてます。
ここからは、個人的な質問なんですが・・・。
松尾はふと、森下に、ある質問を投げかけてみることにした。
実は今、うちのサイトのリニューアルを考えているんですが・・・。
森下さんって、商品やサービスの価値をお客さまに伝えるとき、どんなことに気を付けてこられましたか?
松尾は何気なく森下に質問した。
森下は商品企画だけでなく、広告宣伝の仕事も担ってきたと聞いている。
そんな森下ならではの視点を知りたいと考えたのだ。
うーん。
価値を伝えるときに大切にしてきたことか・・・。
いろいろあるけど、やっぱり、「人と人との信頼関係の構築」かな。
人と人との信頼関係の構築・・・。
そう。
自分と他者とのつながりを大切にして、そのつながりの中で、自社の商品やサービスの価値を伝えてきた。
これは僕の持論だけど、商品をプロモーションしたいのなら、商品の価値を信頼してもらう以上に、まずは、その商品を勧める「自分」というひとりの人間を信頼してもらうことが大事なんだ。
自分というひとりの人間を信頼してもらう・・・。
信頼されていない人がどれだけ「自社の商品は最高です」って言っても、話を聞いてもらえないだろ?
もし僕が信頼されていないのなら、いくら「CPIは良いサーバーです」と言っても、その言葉は相手に届かない。
すごくわかります。
僕が社内でよく使う言葉に、「ビジネスは【人 対 人】のコミュニケーションだ」っていう言葉があります。
ECサイトで買い物をする人は、そのサイトから商品を買うのではなく、そのサイトの「運営者」から商品を買う。
ブログで記事を読む人は、そのブログの記事だけでなく、そのブログを書いている人の背景情報もセットにして記事を読む。
だから、「何」を伝えるか以上に、「誰」が伝えるか、が大事だと。
そうだね。
商いの本質は「人」だから。
それでいうと、僕が大切にしている価値に「情緒的価値」っていうものがある。
情緒的価値・・・。
心理的な価値のことですね。
商品のスペックや使いやすさといった「機能的な価値」ではなく、商品のつくり手や売り手側の「思い」や「哲学」から伝わってくる価値。
うん、そうそう。
「この会社の価値観が好き」とか「この会社の雰囲気が好き」とかいう心理から生まれる価値だね。
人は理屈だけで動かない、人は感情で動く。
「沈黙のWebライティング」でボーンさんが言ってたことさ。
もちろん、対法人での取引においては、感情だけで取引がおこなわれることは少ない。
担当者が「いい」と思ってくれたとしても、発注までにはステークホルダーへの説明が必要になるし、稟議も通さなければいけない。
だから、「情緒的な価値」を伝えるだけでなく、多くの人が納得できるだけの「機能的な価値」もしっかり伝える必要はある。
でも、担当者もひとりの人間。
もし同じ機能の商品があるのなら、自分が好きな会社から買いたいと思うはず。
たしかに、そうですね。
だから、自社の思いや価値観を発信し続けることは大事だろうね。
それが人とのつながりを生むきっかけになり、やがてそこから信頼関係が生まれていく。
僕もそう思います。
大事なのは一貫性をもって、いろいろな場所で発信し続けること。
場所にこだわらず、タイミングにこだわらず、この会社はこういう会社なんだ、この人はこういう人なんだ、という姿を見せ続ければ、きっと誰かに情緒的な価値は伝わるはず。
そして、情緒的価値が伝われば、機能的価値にも興味をもってもらえる。
もちろん、機能的価値を知ったあとに、情緒的価値に触れるというケースもあるんだけどね。
場所にこだわらず、タイミングにこだわらず・・・。
Webサイトで発信するだけでなく、イベントで発信したり、何なら飲み会でも話したり。
まあ、飲み会に関しては、このコロナ禍で積極的に開催しづらくなったけど。
「Zoom飲み」という手もあるかもしれないけれど、あれ、なかなか慣れないんだよな。
そう言うと森下は笑った。
そういやイベントといえば、先日、うちが協賛させてもらったイベント、あれ、すごくよかったと思うよ。
ウェブライダーらしいイベントだった。
実はウェブライダーは以前、沈黙シリーズ10万部突破を記念したオンラインイベントを、KDDIウェブコミュニケーションズ社の協賛で開催していた。
以下の動画は、その録画である。
ありがとうございます。
あのイベントは1,000人近い方が参加してくださり、おかげさまでとても盛り上がりました。
やっぱり、イベントはいいね、熱量が伝わってくる。
まさに情緒的価値だ。
熱量・・・、情緒的価値・・・。
御社の広報の赤木さんの司会もよかった。
やっぱり、その会社の「なかの人」の表情が見えるイベントはいいね。
うちも、もう少しイベントの回数増やそうかな。
「なかの人」の表情が見える・・・。
それだ・・・!!
?
森下さん、ありがとうございます!!
おかげさまで、とても良い気付きをもらえました・・・!!
お、おう。
本当にありがとうございました!!
サイトリニューアルの方針が決まったら、ぜひまた報告させてください・・・!
松尾はそう言うと、森下に丁重に礼を告げ、Zoomを閉じた。
松尾の心の中は、高揚感に満ちていた。
「なかの人」の表情が見える・・・。
「チーム」の表情が見える・・・!
よし・・・!!
ウェブライダーというチームの価値を伝えるアイデアが見えてきた・・・!
サイトリニューアルにはこの視点が必要だったんだ・・・!
このアイデアなら、きっと・・・!
松尾という個人のプレゼンスではなく、チームとしてのプレゼンスを高めたい。
そんな松尾の思いを受けて、ウェブライダーのメンバーたちは何を考えるのか。
そして、松尾に舞い降りた画期的なアイデアとは・・・!?
今、物語を刻む歯車が大きく動こうとしていた・・・!
次回、大改善!劇的Webリニューアル
第三話「そのパーパスに愛はあるか?リブランディングの夜明け」
アンケートを見て愕然としたか。